検体測定室で受検者さんと接するときに、誤解を招くような説明や表現をしてはいけません。しかし、これにはあらかじめ、説明におけるシミレーションをしておくことや、注視するポイントを知っておく必要があります。
ここでは、必ずおこなう説明や解説、よくある質問など、押さえておきたいポイントについてまとめました。医療関係の施設内にかぎらず、イベント会場や企業内会議室など多くのシーンで開催できる検体測定室だからこそ、適切に説明できるようお役立てください。
検体測定室で説明が必要な11項目
検体測定室での説明や解説というと、「測定項目や結果の解説」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。たしかに、それも重要です。加えて、検体測定室は健康診断や診療の用に供するものではないという特性から、いくつかの説明も欠かせません。
まず、検体測定室に関するガイドライン 第2‐1「測定に際しての説明」に示された、合計11個の項目※1 について説明します。これらは、あらかじめ厚生労働省に開設届を提出する際に、運営責任者として登録した医療資格保有者から、口頭でおこないましょう。
【 説明が必要な11項目 】
① 特定健康診査や健康診断等ではなく、これらの未受診者には受診勧奨をしていること。
※1 検体測定室に関するガイドライン(抜粋)平成26年4月9日付医政発0409第4号厚生労働省医政局長通知 第2‐1
② 検体(血液)の採取と採取前後の消毒・処置については、受検者がおこなうこと。
③ 受検者の服用薬や既往歴によっては止血困難となるため、測定サービスが受けられないことと、出血・感染等のリスクは基本的には受検者が負うものであること。
④ 自己採血や自己処置ができない人は、測定サービスを受けられないこと。
⑤ 採取方法や採血量、測定項目と測定にかかる時間について。
⑥ 体調や食事時間などが、測定結果に影響を及ぼすものであること。
⑦ 測定結果は、受検者が判断するものであること。
⑧ 測定は診療のためのものではないことと、改めて医療機関を受診の際には、医師が指示する検査を受ける必要があること。
⑨ 針を刺すことにより、痛みや迷走神経反射を起こす可能性があること。
⑩ 採取した検体(血液)は、受検者が希望する項目以外には使わないこと。
⑪ 受検者からの問い合わせ先を明示し、対応できるようにしていること。
「測定に際しての説明」を参考に表現を一部編集
検体測定室、誕生の背景を伝える意義
もっとも重要なポイントは、”基準値内=健康である” といった誤解を招かないようにすること※2。単に検体測定室で測れる9つの検査結果を受けて、疾患の潜む可能性はないというような誤解を与えてはいけません。自分は健康だと過信することで、9項目には反映しない体内の不調を見逃す恐れがあります。
基本的には、年に1回以上の定期的な健康診断等を受けながら、その合間における定点の血液像を把握するために用いる測定手段です。そのため、可能なら検体測定室そのものが誕生した背景なども知ってもらうとよいでしょう。
背景として、その始まりは2013年6月14日に閣議決定された、第二次安倍内閣の経済政策(アベノミクス)における成長戦略のひとつ「日本再興戦略」。この中で、「国民の健康寿命の延伸」をめざした予防・健康管理の推進に関する、新たな取り組みが期待されて誕生したのが検体測定室です。
そして翌年、2014年度予算のなかで厚生労働省が「健康情報拠点事業」として、全都道府県を対象としたモデル事業を実施した結果、運用や留意する点についてまとめたガイドラインの第1版が2014年4月9日に交付されました。
したがって、検体測定室の目的は「健康寿命の延伸」であって、健康診断や治療における定期的な血液検査の代替とはなりません。前述の11項目について説明して理解を得ることに加え、受検者さんの主体的な測定サポートと、ご理解への尽力に努めることが大切です。
※2 検体測定の結果のみで利用者が誤解するリスクを念頭に!
『 医師の診断を伴わない検体測定事業の結果のみをもって、利用者が健康であると誤解するといった事態も生じかねないため、利用者への健康診断の定期受診の勧奨を求めるとともに、血液に起因する感染症を防止する観点等から、適切な衛生管理や精度管理の在り方等の検体測定事業の実施に係る手続、留意点等を示したガイドライン(検体測定室に関するガイドライン)を別紙のとおり定めた。 』
※2 検体測定室に関するガイドライン(抜粋)平成26年4月9日付医政発0409第4号厚生労働省医政局長通知(通知冒頭の部分を一部抜粋)
リピートにつながる3つの視点
次に挙げるような3つの視点は、受検者さんの継続的な測定の意思決定に関わることが大いに考えられます。受検者さんが定期的に測ることの意味を考え、「ここでまた受けたい」と思われるようなサポートを目指しましょう。
視点①|注意すべき判断の要素
測定結果から判断するのは受検者さん本人ではあるものの、そこに不安や疑問がある場合、医療従事者に対して様々な質問が投げかけられます。あらかじめ、質問に対する答えを用意していても、皆が一律に同じ質問をされる訳ではありません。
適切に回答したとしても、人によっては良い方向(もしくは悪い方向)に偏って解釈される人もいます。なかには、とても勤勉な受検者さんにありがちな、週刊誌やメディアで注目されている情報について審議を求める人や、必死に受診勧奨を行ってもメディアの情報を頑なに信じていて耳を貸さない人も。
その他、方言が加わったり聴力の低下などで言葉が伝わりづらかったり、スタッフの頷く様子を見て肯定的だと解釈されたりすることもあります。
じつに多くの要素によって、意図せず偏りのある判断は生まれてしまうものです。受検者さんが適切な判断ができるように導くことも、測定に従事する運営スタッフが担う重要な役割の一つと言えるでしょう。
視点②|個々のリテラシー向上
測定にのぞまれる受検者さんは、多くの場合、何かしらの目的や不安があって受けようとしています。見方によっては、健康に対する意識を持っている人と捉えられるでしょう。こういった人に対し、一様に同じ説明をするのはナンセンスです。
その目的や不安を土台として既にある知識や知りたい情報を適切に共有し、受検者さんのヘルスリテラシーそのものが向上されるよう、個別ニーズに応えるようなサポートを行うことが大切ではないでしょうか。
【受検者さんのよくある目的や不安】
「健康診断を何年も受けていない」
「健康診断が来月あって心の準備に」
「親族で糖尿病の人がいて遺伝が心配」
空腹時ではなく食後の値が気になる」
「治療中で次の採血まで長いので不安」
視点③|測定結果と2つの”ひも付け”NG
ガイドラインにも明記されています※3が、検体測定の結果にひも付けるかのように、商品やサービスを提案してはいけません。例えば、直接的に口頭で提案するほか、検体測定室内に商品の陳列やパンフレットなどの掲示をするというような、紛らわしいものにも注意が必要です。
以前、厚生労働省医政局の担当者がセミナーで登壇した際にくぎを刺した話の中で、検体(血液)を採取する場のすぐ近くに商品の陳列棚があるという事例があったと明かしていました。これは感染リスクが高いだけでなく、受検者さんにとっては測定結果を知ったと同時に、商品に注意が向くような仕掛けになっていると捉えられても仕方ありません。
また、商品やサービスだけでなく、測定結果を病気とひも付けることも控えなければなりません。理由は、その数値が逸脱している背景には、どのような病気が潜んでいるか検体測定の結果だけでは計り知れないから。場合によっては、何かの病気や薬剤が原因で、血糖や脂質、肝機能に影響を及ぼしている可能性もあります。
具体的には、血糖(HbA1c)が基準値よりも高い値のとき、安易に「糖尿病の可能性がある」ということは控え、数値の見方やその意味などを説明した上で受診勧奨を行うことが重要です。
※3 測定結果と商品やサービス、病気の関連付けNG!
検体測定室に関するガイドライン(抜粋)平成26年4月9日付医政発0409第4号厚生労働省医政局長通知 第2‐24
『 検体測定室では、測定結果をふまえた物品の購入の勧奨(物品の販売等を行う特定の事業所への誘導を含む。)を行わないものとする。 』
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準備しておくべき質疑応答
2024年春の時点で全国に常設する検体測定室は2000件弱と、まだあまり一般の認知度が高いとは言えません。したがって、測定をしたことのある人よりも、初めて、もしくは数回目という人のほうが多いのです。このような受検者さんが多く集まる場合には、共通した質問が多く見られます。
次に挙げるような質問は比較的、検体測定室での経験がすくない受検者さんでよく聞かれる内容です。適切に答えられるよう、日頃からスタッフ同士などでシミレーションしておくとよいでしょう。
- この数値は危険ですか?
- この数値なら心配ないですか?
- 一般的に見てこの数値はどうですか?
- 何か月位で数値は下がりますか?
- どの位あけて測定したらよいですか?
- 病院での測定と差はありますか?
「診」を使った表記がダメな理由
診療や予防といった、紛らわしい表現は控えましょう。例えば、「診」という字は診療や健康診断を連想させるため、「ワンコイン健診」や「ゆびさき健診」というような表記をしてはいけません。
また、「健康診断うけていますか?」といった呼び込み文句も、人によっては健康診断の代わりになるという風に、誤解される可能性があるため避けるべきでしょう。
測定結果の説明では年齢や基礎疾患、治療を受けているかどうかによっても判断の仕方は異なり、薬や通院を自己判断で変えないように伝える必要があります。受検者さんごとの背景を適切に把握した上で、検体測定室で受けた説明が、治療の妨げとならないように配慮することが大切です。
まとめ
以上、検体測定室での説明には誤認を招かないようにするために、数々の配慮が必要です。測定項目や結果など必須の説明に加えて、のぼりやポスターなどの告知に関するものや、説明資材やパンフレットなどの配布物にも注意しましょう。そして、受検者さんの解釈が偏らないように、個別のニーズと課題にそった情報共有や提案、受診勧奨をおこなうことが大切です。
※この記事は2024年5月時点の情報です。ガイドラインの改正などにより、手続きや届出等に変更がある際には、現状をご優先いただきますようお願いいたします。