受講レポート|検体測定室の外部研修「世界糖尿病デー・健康啓発セミナー2023」

世界糖尿病デーの11月14日に合わせて毎年開催される「世界糖尿病デー・健康啓発セミナー」(主催:検体測定室連携協議会)はガイドラインに定められている外部研修であると共に、検体測定室の動向や展望に関する最新情報、医療関係者の活動や新しい取り組みについて学べる機会です。ここでは2023年11月1日に受講した内容のうち、筆者が特に興味深く感じた「ガイドライン改正の背景」と「パネルディスカッション」を中心にレポートします。

目次

セミナーの概略と見どころ

世界糖尿病デー・健康啓発セミナーとは、検体測定室連携協議会が毎年11月頃に開催する検体測定室の外部研修で、受講対象者は検体測定事業の関係者をはじめ、これから検体測定室を始めようという人や関心を寄せる人、そして報道関係者など、とくに受講資格は制限なく受けられるセミナーです。

受講者には終了証も発行され、検体測定室の運営に関するガイドラインでは、定期的にこうした外部研修を受けることと明記されています。

今回のセミナーにおける概略(プログラム)は以下のとおり。3つの演題はすべて興味深いものでしたが、筆者の印象に強く残った見どころは、演題①で厚生労働省医政局 畠 伸策氏の解説する「ガイドライン改正の背景」と、パネルディスカッションで語られた「検体測定室の展望と期待」です。

セミナー2023のプログラム

日時:2023年11月1日(水)18:30~20:30
場所:東京大学 医学部 鉄門記念講堂
開催方法:Web配信・会場参加

《開会のご挨拶》

検体測定室連携協議会 執行委員長
自治医科大学 内科学講座 内分泌代謝学部門 教授

矢作 直也 先生

《演題①》

「検体測定室ガイドラインについて」
厚生労働省医政局地域医療計画課 医療関連サービス室 室長

畠 伸策 様

《演題②》

「糖尿病の早期発見のための課題は何か?」
公益財団法人 朝日生命成人病研究所 付属病院 診療部長・糖尿病内科部長 兼 治験部長

大西 由希子 先生

《演題③》

「医薬連携愛知モデルによる薬局でのHbA1c測定を介した地域住民への受診勧奨の試み」

吉川 昌江 先生

《パネルディスカッション》

「これからの検体測定室」

矢作先生、畠様、大西先生、吉川先生

《閉会のご挨拶》

検体測定室連携協議会 執行委員長
自治医科大学 内科学講座 内分泌代謝学部門 教授

矢作 直也 先生

2023年|検体測定室の動向

はじめに、検体測定室の幕開け2014年から現在まで、常設件数における推移と動向について検体測定室連携協議会 執行委員長 矢作 直也先生から説明がありました。依然として地域差は大きく、近年のコロナ禍による影響は少なくないと話します。その上で、このセミナーを通じ、どのように検体測定室が役に立つかということを伝えたいと語りました。

ここで筆者には、昨年2022年のセミナーで矢作先生が「終息を待つのではなく、”Withコロナ・Afterコロナ”に向けた取り組みを活性化していきたい」と話していたことが頭をよぎります。これがセミナー終盤のパネルディスカッションで、まさにその進捗が発表されることになろうとは…。

ガイドライン改正の背景を知る!

演題①のテーマ「検体測定室ガイドラインについて」では、昨年に続き厚生労働省医政局地域医療計画課 医療関連サービス室 室長補佐の畠 伸策 様より常設件数の推移から、ガイドラインのポイントおよび改正内容とその背景、関係者に対するお願いについて話がありました。
現状、このガイドラインの遵守に関する状況は、各事業所での自己点検によって厚生労働省が把握しています。

厚生労働省が求める開設後の自己点検

厚生労働省医政局が開設後5年を経過した事業所に対し、提出を求めている自己点検について。今回は2023年度に実施した結果を報告しました。対象は2017年に開設した事業所と、2016年の開設で前年に未提出であった事業所です。対象数408施設のうち、回答が得られたのは375施設(91.9%)。
その結果、ガイドラインに定める事項で未実施の回答が多かった項目は次の通りでした。

なかでも、年に1回以上の参加が定められている外部精度管理調査は、2021年6月28日(ガイドライン掲載)から自己点検の項目に追加されているにも関わらず、最多の15.3%(42施設)が未実施です。これに対し、「自分の施設がほかの施設と比べた場合に、どのような評価が得られるかを確認してください」と添えました。
冒頭の挨拶で矢作先生も示したように今年度はコロナ禍の影響か、3ヵ月に渡り運営実績がなかったため廃止に至った事業所が95件あり、非常に多かったと話します。

受検者さんの中にはこれまで利用していた施設が廃止となり、新たに検体測定室を探しているかもしれません。そのような人に対し、現状で検体測定室を構えていない薬局でも相談に乗り、検索サイトなどを使って案内することが当たり前の世の中になればいいなと筆者は思います。

※検索サイト:厚生労働省に登録している検体測定室は、検体測定室連携協議会の運営する公式検索サイト「ゆびさきセルフ測定室ナビ」で検索できます。

改正の裏付けは自己点検から

ガイドライン一部改正(2023年6月)で大きいのは、穿刺針の台帳(管理帳簿)に関する保管期間が短縮されたという点。これまで、検体測定室に関わるすべての台帳は、その保管期間を20年間と定めていました。今回、管理医療機器にあたる穿刺針については形状によって保管期間が5年間と20年間に分かれた形で、この改正背景にあるのが自己点検です。

2014年にガイドラインが初めて発行された当時は、穿刺器具全体がディスポーザブルタイプでない穿刺針を使用している施設もあり、その追跡調査を可能にするため20年間と定められていました。これが自己点検によって、完全にディスポーザブルタイプを使用しているという裏付けが取れたことで改正に至ったと説明します。

厚生労働省に寄せられる質問

厚生労働省では、日頃からよく検体測定室に関する質問を受けるそうです。最近でとくに多いのが、一時休止に関すること。昨今のように新型コロナウイルスが原因で運営が滞っていたとしても、3ヵ月を超える休止となる場合には、いかなる理由であっても廃止届を行うことが必要だと話します。

一方、「個別スペースの確保が困難な場合はどうすればよいか?」という質問では、検体測定室の開始当時を振り返りました。当時は、採血する場所のすぐ近くに商品の陳列棚があるなど、感染の危険性について懸念されるような事例もあったのだとか。そうした背景もあって現在のガイドラインが定められていると説明し、清潔が保持できるような広さや高さを考慮した衝立などを利用して、個別スペースを区別するようにと加えました。

ほかには、「精度管理を確実に実施する体制とは、どのような体制か?」という質問で、あらかじめ施設内で備えるべき標準作業書や、機器製造業者の定める保守点検に関する事項についても解説。具体的な対応の取り方について、関係者全員で周知しておくことが大切です。

国レベルで動き出す検体測定室の展望

パネルディスカッションは矢作先生の司会のもと、登壇者3名と意見交換をする形で進行。なかでも、筆者がとくに興味深いと感じたのは次の話題3つです。

話題①「国家プロジェクトSIP×検体測定室」

一般には聞きなれないSIP(Strategic Innovation Program、戦略的イノベーション創造プログラム)は、2014年から始まった国家プロジェクトで、日本経済再生と持続的経済成長を実現するために、14の課題を挙げて社会を変えるために不可欠な科学技術イノベーションを推し進めるものです※1

現在は第3期に入り、課題のひとつである「統合型ヘルスケアシステムの構築」のなか、テーマB-2「電子問診表と個人健康情報(PHR※2)を用いた受診支援・電子カルテ機能補助システムの開発」という部分に対し、検体測定室を接続することが認められたそうです。

出展:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 統合型ヘルスケアシステムの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画 令和5年3月 16 日」

その内容は、PHRと薬局の検体測定室における情報をQRコードで連携し、ほかにも電子問診表のような情報も統合しながら受診支援につなげていくというもの。たとえば既にスウェーデンでは、血圧などのPHRデータや検査結果がすべて電子カルテに統合され、医師はそのデータを活用した診断が可能です※3

ダイレクトで価値の高い情報をインプットできる検体測定室のデータが、現状では“診療の用に供さない”という縛りはあるものの、将来的には遠隔診療に活用できる可能性があると、矢作先生が期待を語りました。

2023年現在、全国の検体測定室で用いられているシェアの高い2社の対外診断用機器では、すでにQRコードを活用した運用が始まっています。じつは筆者は今、身近なPHRデータとして血圧の推移を日々記録し、検体測定室での値もアプリで統合しながら長期的なデータを作ろうと励んでいるところです。

これが自己管理の域を超え、遠隔やオンラインなど利便性の高い診療方法で、日々の努力がより良い治療を受けることにつながるという時代はそう遠くないのかもしれません。

※1 参考:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)シンポジウム」
※2 PHR:Personal Health Record
※3 参考:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 統合型ヘルスケアシステムの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画 令和5年3月16日」

話題②「災害×検体測定室」

災害時には医療機関も被災し、お薬手帳や常備薬を失った被災者を適格に診療することは困難を極めます。

そこで、矢作先生から厚生労働省医政局の畠様に対し、災害時に薬局などの検体測定室をバックアップするような検討の有無について尋ねました。
畠様の回答は、現状は未だそういった検討はないものの、災害を取り扱う関連部署と連携して情報提供をしていきたいとのこと。

検体測定室はガイドラインに沿った運営が欠かせないことを考えると、こうした運用には諸々の検証や規定の見直しなどが必要になるのでしょう。自己健康管理の一助となることを基本として、このような有用性についても見方が広がっていくことを願うばかりです。

話題③「薬剤師の先入観×検体測定室」

吉川先生の演題③「医薬連携愛知モデルによる薬局でのHbA1c測定を介した地域住民への受診勧奨への試み」では、糖尿病予備軍と介入の必要な段階での拾い上げといった成功事例などを学んだ一方で、費用対効果などの課題も示しました。確かに、検体測定室で扱う検査用試薬や対外診断用機器は、決して安いものではありません。

さらにパネルディスカッションで語ったのが、現場で活躍する薬剤師の先入観について。このモデルを実施するにあたり、各地域の薬剤師会に所属する薬剤師へ、検体測定室に対する意見を求めたそうです。結果は、「敷居が高い」という意見。とくに、穿刺についてやったこともなければ、見たこともないという薬剤師が多かったのだとか。

筆者は薬学生を対象とする合同企業説明会の場で、検体測定室を運営した経験があります。また、ドラッグストアショーで開設した検体測定室でも、当初より予想を超える数の薬学生が測定に臨んでいました。「大学の授業や実務実習先の薬局で触れたことがある」と話す薬学生は少なくありません。
これから世の中で活躍する若手薬剤師は、在学中に検体測定室の知識と経験を備えている可能性が高いと考えて間違いないでしょう。

受講後にはお忘れなく!

今回のセミナーは、ガイドラインに定められている定期的な外部研修に該当します。運営責任者だけでなく、薬局など検体測定室の事業所を構えるところで働くすべての関係者で、これらを情報共有することが必要です。
受講修了証の取得や研修台帳への記録に留まらず、こうした最新の情報が広く地域住民の健康増進に寄与していくことを目指し、活用していきましょう。

※この記事は2024年1月時点の情報です。ガイドライン改正などにより変更が生じている際は現状をご優先ください。

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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