マイナポータルは現状、お薬手帳(アプリ含む)の代わりにはなりません。2023年策定の「電子版お薬手帳ガイドライン」や、便利な機能の数々を踏まえて薬剤師が徹底解説します。薬局の会計が安くなる(逆に高くなる)仕組み、お薬手帳の基本の取扱い6カ条、アプリの選び方とメリット&デメリットを知ることで、自分にぴったりの健康管理スタイルを見つけましょう。
薬局会計が「安くなる」2つのパターン
現代の医療では、病院やクリニックで処方せんを受け取り、その後、調剤をおこなう薬局やドラッグストア(以降、薬局に含める)へ向かう「医薬分業※」の流れはすっかり定着しました。しかし、薬局での支払い金額を安く抑えられるパターンがあることを、知らない人も多いのではないでしょうか。
会計の内訳は、多岐にわたる項目と細かい計算方法があるものの、患者さんにとって分かりやすい「安くなる」パターンは、大きく分けて2種類あります。
※医薬分業:医師と薬剤師がそれぞれの専門分野で業務を分担し、国民医療の質の向上を図る仕組みのこと。

パターン① お薬手帳の活用
1つ目の方法は、お薬手帳を活用し、3ヵ月以内に同じ薬局へ処方せんを出すこと。この制度が始まったのは、2016年度(平成28年度)診療報酬改定からです。当時は、薬局の規模や設備の内容などによって安くならない薬局もありました。また、以前は対象期間も「6ヶ月以内」と、現在よりも長く設定されていたのが特徴です。
現在の、「どの薬局でも3ヵ月以内の再訪で安くなる」というふうに統一されたのは、2020年度(令和2年度)診療報酬改定から。この場合の差額は、3割負担の人で40円~50円ほど(調剤明細書上の14点分)です。
パターン② 複数の処方せんを1つの薬局へ
2つ目は、複数の医療機関を受診して受け取った処方せんを、1か所の薬局にまとめて出す方法です。2020年度(令和2年度)診療報酬改定から導入されたこの仕組みでは、異なる医療機関の処方せんを同じ日に同じ薬局へ持ち込むと、「調剤基本料」の一部が100分の80として計算されます。その結果、会計からそれに相当する金額が差し引かれることに。
安くなる具体的な金額は、その薬局が届出内容によって設定している基本料の種類によって異なるため、一律ではありません。
こうした2種類の「安くなる」パターンが設けられた背景には、患者さんに「かかりつけ薬局」を持ってもらいたいという国の意図があります。情報を一つの薬局に集約させることで、薬の重複や飲み合わせのトラブルを防ぎ、より安全な医療を提供することが本来の目的です。
薬局会計が「高くなる」2つのパターン
一方で、会計が「高くなる」2つのパターンがあることも押さえておきましょう。
パターン① お薬手帳を忘れる、利用しない
1つ目は、お薬手帳の持参を忘れてしまうこと。また、手帳を利用しない場合もこれと同様に、3割負担の人で40円~50円ほど多く支払うことになります。
処方せんの有効期間は、発行日を含めて4日以内(祝祭日を含む)であるため、急ぎで薬が必要ないのなら、一度帰宅して手帳を持ってから再度来訪するのも一つの手段です。あるいは、先に処方せんだけを薬局へ預けておき、あとで薬を受け取りに行く際に手帳を持参するといった方法もよいでしょう。
パターン② 受付時間外に処方せんを出す
2つ目は、薬局の受付時間外に処方せんを出すこと。注意したいのは、この受付時間が薬局独自の営業時間とは必ずしも一致しない点です。厚生労働省の規定により、以下の時間帯に処方箋を出すと「夜間・休日等加算」という追加料金が発生します。
| 曜日など | 対象時間 |
|---|---|
| 平日 | 午後7時以降 または 午前8時より前 |
| 土曜日 | 午後1時以降 |
| 日曜日・祝日 | 終日 |
| 年末年始 | 12月29日〜1月3日の終日 |
この加算による負担額は、3割負担の人で300円。お薬手帳を忘れた(利用しない)ときよりも大幅な負担増となります。緊急性が低いのであれば、翌日以降の受付時間内に受け取ることも検討するとよいでしょう。ただし、その際も処方せんの有効期間(発行日を含めて4日間)を過ぎないよう、注意してください。

お薬手帳とは?役割やメリット
お薬手帳には、大きく分けて2つの重要な役割があります。1つは、薬の使用歴を時系列で把握し、日々の健康管理に役立てること。もう1つは、医師や薬剤師が内容を確認することで、薬の相互作用や副作用を未然に防ぐことです。
可能な人では、自らも主体的にその記録を管理していく姿勢が求められています。例えば、使用によって起こった副作用の内容や、薬の変更によってどのように体調が変化したかなど、自由に書き込んで構いません。
お薬手帳は、単に記録のシールを貼り並べるだけのものではなく、自身の治療に対する理解を深めるツールとして活用するのが理想です。あとから見返したときに、当時の健康状態がひと目で分かるよう記録しておけば、転院や主治医が変わった場合もスムーズに治療を受けられるようになります。
≪効果的にメモを残すためのポイント≫
- 要点を絞った箇条書きにする
- 始めて使う薬には印を付ける
- 服用量(規格や錠数)が変わった箇所は色を付けて目立たせる
現在では、花粉症の薬など、以前は医師の処方が必要だった成分(医療用医薬品)が、市販薬としてドラッグストアなどで購入できる「スイッチOTC医薬品」も増えました。薬局やドラッグストアでお薬手帳を提示すれば、過去に効果の良かった成分と同等の薬を買い求めることもできます。加えて、現在使用中の薬との相互作用も、薬剤師に確認してもらうことが可能です。
お薬手帳を日常的に活用することは、セルフメディケーションの安全性と有効性を高めることにも直結します。

お薬手帳の基本の取扱い6カ条
お薬手帳には、意外と知られていない基本的な取扱いが存在します。自分専用の「健康管理パートナー」として最大限に活用するため、次の6つの事項を押さえておきましょう。
① サイズやノートは自由に選べる
お薬手帳には、公的なサイズ規定はありません。お気に入りのキャラクターデザインや、使い慣れたA5・B6サイズのノートを代用することも可能です。ただし、ノートの冒頭には必ず、副作用歴や既往歴などを記載する「頭書き(あたまがき)」のページを作成してください。
以下に添付する画像を印刷して貼り付け、そこに自身の情報を記入するのもよいでしょう。

※当画像は厚生労働省通知「令和6年3月5日保医発0305第4号」を参考に、リテラブーストが作成したものです。個人使用の範囲を超える利用についてはご遠慮ください。
② 一人1冊の原則
お薬手帳は、一人の情報を一元管理するためのものです。家族分を1冊にまとめると、情報の混同を招き、重大な医療事故につながりかねません。複数人分の手帳を一つの手帳カバーに入れるのも、取り違えのリスクがあるため避けましょう。
また、薬局で持参を忘れてしまった場合は、自宅で簡単に記録できるように「手帳シール」を受け取りましょう。その場しのぎで新しい手帳を作ってしまうと、情報が分散して相互作用のチェックが機能しなくなります。
加えて、医療機関や診療科ごとに手帳を分けるのも誤った使い方です。すべての薬の情報を1冊に集約することで、あとから見返す際にも時系列で全体が把握しやすい手帳になります。
③ 領収書や薬情などを挟み込まない
お薬手帳のなかに、領収書や薬の説明書(服薬情報提供書、薬情)などを挟み込むのは控えましょう。なぜなら、医療従事者が確認する際の手間が増えるだけでなく、肝心な情報が埋もれてしまう恐れがあるからです。
もし、検査結果や薬の説明書なども手帳に記録しておきたい場合は、手帳シールと同様に、該当するページへ直接貼っても構いません。
自分以外の誰かが見ても一目で把握しやすいお薬手帳をつくることは、安全な医療につながるだけでなく、病院や薬局での待ち時間が短縮されるといったメリットもあります。

④ 貼り忘れたシールは時系列で貼る
お薬手帳を忘れて受け取った「手帳シール」を、あとからまとめて貼る際は注意が必要です。必ず「処方された日付順」になるよう貼り付けてください。新しいページに古い情報を貼ってしまうと、治療の経過を正しく把握できなくなります。
もし、貼るスペースがすでに埋まってしまっている場合は、下の情報が見えるように、ホチキスやテープで端だけ留めておくなど、重なって貼っても問題ありません。貼り方に迷うときは、薬局で薬剤師に相談すれば、両方が把握できるように貼ってくれます。
⑤ 院内処方でも記録を依頼する
薬局を通さず病院内で薬を受け取る「院内処方」の場合も、お薬手帳を提出すれば記録を付けてもらえます。ただ、薬局と異なり、手帳の有無で会計が変わることはありません。 あとから自分で情報を書き込んでも問題はないものの、記入すべき内容が多く、大変な作業です。その内容は、医療機関の名称や処方医師名、正確な薬の用法や用量、医療機関の連絡先など。
正確な記録を残すために、院内処方の医療機関を受診する際も忘れずに手帳を持参し、提出するようにしましょう。
⑥ 使い終わったあとの廃棄と保管
使い終わった古いお薬手帳は、直近の経過を確認するために、少なくとも過去2~3年分くらいは保管しておくのが理想的です。不要になった冊子を廃棄する際は、細心の注意を払ってください。手帳は極めて重要な個人情報の塊です。
そのままゴミに出すのではなく、可能ならシュレッダーにかけるか、個人情報保護スタンプなどを利用して、内容を判別できない状態にしてから処分しましょう。
電子版お薬手帳(お薬手帳アプリ)とは?
紙のお薬手帳が抱える「持参を忘れがち」「もらったシールを貼り忘れ」「処分に気を使う」といった課題を解消するのが、スマートフォンで管理できる「電子版お薬手帳(お薬手帳アプリ)」です。2025年現在、多くの企業や団体から多様なアプリがリリースされており、そのほとんどが無料で利用できます。
アプリの大きな利点は、シールの貼り忘れや紛失のリスクをほぼゼロにできる点。さらに1台のスマホで家族全員分の情報を一括管理できる機能を備えるアプリも多く、子育てや介護をしている人にも便利です。

現在、厚生労働省が推進する「データヘルス改革」により、アプリを取り巻く環境は劇的に進化しました。2023年1月から開始された「電子処方箋」の運用や、マイナポータルとのAPI連携によって、自身の薬剤情報をスマホへスムーズに取り込むことが可能です。
こうした進化により、お薬手帳は単なる「薬の記録」から、自身の健康情報(PHR, Personal Health Record)を蓄積し活用するためのプラットフォームへと変わりつつあります。さらに、他のPHRサービスとの連携により、日常生活の中で健康増進を支える強力なツールになるとして期待されているのです。

お薬手帳アプリ初のガイドラインが発行
2023年(令和5年)3月31日、厚生労働省より日本初となる「電子版お薬手帳ガイドライン」が発行されました。これは、マイナ受付や電子処方箋の開始、マイナポータルを通じた情報閲覧の拡大といった、医療DXの進展を踏まえた指針です。
本ガイドラインの核心は、電子版お薬手帳を単なる記録用アプリではなく、市販薬を含む「薬剤情報の一元的・継続的な管理」を支える重要な医療インフラと位置付けた点にあります。さらに、アプリ開発や提供をおこなう運営事業者が、「実装すべき機能」も具体的に整理されました。
≪実装すべき機能7つ≫
- マイナポータルから提供される薬剤情報等を取り込むことができる機能
- 画面に、現在使用している医薬品等の処方記録、服薬記録を表示する機能
- 医薬品等の特徴、効能・効果、用法・用量等の情報表示機能
- 医薬品の有効成分を表示する機能
- 利用者が秘匿したい情報を指定可能な機能
- 一般用医薬品等の登録機能(JANコードの読み取り機能を含む)
- 利用者による適切な服薬を支援するための服薬管理機能
この公的な基準が示されたことで、一般消費者は今後「国が求める水準をクリアしているか」という視点を加えてアプリを選べるようになります。まさに、アプリ選びが「なんとなく便利そう」から「安全性と信頼性重視」へと変わる大きな転換点といえるでしょう。
お薬手帳アプリの選び方と便利な機能
お薬手帳アプリには前述した「実装すべき機能」のほか、スマートフォンで撮影した処方せんの送信機能や、近くの薬局と医療機関の検索など、数々の便利な機能が備わっています。しかし、App Storeなどで検索すると50種類以上(2025年12月19日時点)ものアプリがヒットするため、どれを選べばよいか迷ってしまう人もいるでしょう。
そこで選択の決め手になるのが、「厚生労働省のガイドラインに準拠しているか」という視点です。2024年6月、国が求める基準を満たした「ガイドラインに沿った電子版お薬手帳サービスリスト」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/e-okusuritecho.html)が初めて公表されました。2025年12月1日時点のリストには、32種類の電子版お薬手帳サービス名が記されています。
まずはこのリストに掲載されているアプリから選ぶのが、安全性と信頼性の面で確実といえるでしょう。その上で、自分のライフスタイルや目的に合った以下の付加機能に注目してみてください。
≪お薬手帳アプリの便利な機能(例)≫※ガイドラインで示された「実践すべき機能」7つを除く
| 🔷利便性・効率化 |
|---|
| 処方せんをスマホで撮影して事前に送信できる |
| 近くの薬局や医療機関を素早く探せる |
| 通院予定やメモを記録できるカレンダー機能 |
| 支払った医療費の自動記録(医療費控除の準備に便利) |
| 🔷健康管理・安全性の向上 |
| 薬の飲み合わせ(相互作用)の検索ができる |
| 服薬アラームによる飲み忘れ防止 |
| 血圧・歩数などのヘルスデータ管理 |
| 検体測定室での検査結果をグラフで可視化 |
| マイナポータルで取得した検査結果をグラフで可視化 |
| ワクチン接種スケジュールの管理 |
| 🔷おトクな特典・情報 |
| アプリ利用で「ポイ活」(他社連携でのポイント付与) |
| 系列ドラッグストアのクーポン獲得やチラシ閲覧 |
| 専門家監修による健康や医療コラムの配信 |
お薬手帳アプリのメリット&デメリット
お薬手帳アプリの利便性は高いものの、すべてにおいて万能というわけではありません。紙の手帳と比べたときの「強み」と「弱み」も押さえておきましょう。
アプリ特有の注意点は、データの自動連携※には「薬局側のシステム対応」が必要なことです。たとえ、アプリ内の検索機能に表示される薬局であっても、そのアプリの「提携店」でなければ、基本的に処方データの自動反映はできません。提携外の薬局では、従来通り患者さんがQRコードを手動でアプリに読み込む必要があります。
※データの自動連携:患者本人がアプリの操作をしなくても、クラウドを通じて自動で薬のデータが更新されること。
≪冊子とアプリの比較≫
| 比較項目 | 冊子(紙) | アプリ(電子) |
| 携帯性 | 忘れやすく、かさばる | 常に持ち歩くスマホで管理 |
|---|---|---|
| 災害・紛失 | 紛失や破損で記録が消える | クラウド保存で災害時も安心 |
| 付加機能 | 記録のみ | 便利な機能が数々あり |
| 対応状況 | 全国すべての薬局で共通 | 薬局により自動連携に制限あり |
| 使用環境 | 誰でも、どこでも使える | 電池切れや通信環境に左右される |
| 利用料 | 無料 | パケット通信料がかかる |
紙とアプリ、両方使う「二刀流」もアリ!
「結局、紙とアプリのどちらがいいの?」と迷うかもしれませんが、どちらか一方に絞る必要はありません。管理が負担にならなければ、両方を併用する「二刀流」も賢い選択の一つです。アナログとデジタルの強みを組み合わせることで、それぞれの弱点を補い合えます。
実は、この記事の執筆者(薬剤師)も「二刀流」です。定期的な通院や入院、そして薬局などで、医師や自分以外の薬剤師にも中身を確認してほしい場面では、パラパラと全体を見渡しやすい「紙のお薬手帳」を提出します。一方、予定外での受診の際は、「お薬手帳アプリ」で情報を提示するといった使い分けです。
これなら手帳の持参忘れを防げるため、40円~50円の医療費節約にもつながります。
また、以前は参考書などで調べていた薬の情報も、アプリなら瞬時に信頼性の高いデータへのアクセスと検索が可能です。さらに、検体測定室での検査結果と、マイナポータルから取得した検査結果をまとめてグラフ化し、自分の健康状態を可視化できる機能は、健康管理を楽しく継続するための大きなモチベーションにつながります。

大切なのは、どちらを使うかよりも「いざという時に正確な情報を伝えられる状態」を整えておくこと。自分にとって無理なく、楽しく続けられる管理スタイルを見つけてみてください。
※この記事は、2025年12月30日時点の情報をもとに作成しています。法改正やガイドライン改正などにより、現状と異なる際には、行政の配信する最新情報を参考にしてください。


