2023年、脂肪性肝疾患(脂肪肝)の総称は「SLD」へ、これまでの「NAFLD」は「MASLD」へと改称され、実態に即した5つの病型が新たに提唱されました。その後の「奈良宣言」ではALT値が30(IU/L)を超えた場合に専門医の評価を推奨するなど、早期介入のための具体的な指針も発表されています。
この記事では、脂肪肝をめぐる概念の変遷から、奈良宣言の要点、ALTを含む代謝異常を主体的に把握していくための手段(検体測定室やPHR)について紹介します。
1980年に提唱、旧概念「NAFLD」
脂肪肝(脂肪性肝疾患)とは、一般に肝細胞の5%以上に脂肪滴が認められる状態を指します。国内の罹患者は2千万人を超え、健康診断を受けた人の約3割に見つかるほど頻度の高い肝疾患です。
これまで脂肪肝は、過度な飲酒による「アルコール関連脂肪肝」と、飲酒に起因しない「非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)※」の2つに大別されてきました。これは1980年、Ludwigらが飲酒習慣のない人でもアルコール関連脂肪肝と似たような肝組織の症状が見られることを報告し、提唱した概念です。
NAFLDはさらに、ゆっくりと状態が進行する「NAFL※」と、比較的早く進行して「肝硬変」や「肝がん」になるリスクの高い「NASH※」の2つに分類されます。しかし、この旧来の概念には肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームなどで問題となる「代謝異常」の視点が診断基準に含まれていませんでした。
※NAFLD(non-alcoholic fatty liver disease):主な原因が飲酒ではない脂肪肝の総称。
※NAFL(non-alcoholic fatty liver);脂肪の蓄積はあるものの、炎症や肝細胞障害の程度が軽く、進行が緩やかな状態。
※NASH(non-alcoholic steatohepatitis):脂肪蓄積に加え、脂肪変性や炎症、肝細胞障害が見られるのが特徴で、進行すると肝硬変や肝がんを引き起こす。

2020年に提唱、旧概念「MAFLD」
代謝異常は、肝組織の線維化(肝臓が硬くなること)を進行させる重要なリスク因子です。そのため、この視点なくしてリスクの高い脂肪肝患者を効率的に見つけ出すことは困難といえます。そこで2020年5月、世界22カ国の専門医らにより提唱された新概念が「MAFLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)」です。
MAFLDは、脂肪肝に加え「肥満」「2型糖尿病」「2種類以上の代謝異常」のいずれかを伴う場合に診断されます。脂肪肝をもつ日本人の約25%は肥満ではない人たちであるため、「2種類以上の代謝異常」が診断基準に加わったことは注目すべき点と言えるでしょう。
ここでの代謝異常には、血圧や血糖値、血液中の中性脂肪やHDLコレステロール(善玉コレステロール)といった健康診断でおなじみの項目が含まれます。新概念の導入によって、これまで明確な基準がなかった「非肥満の脂肪肝」についても、共通の物差しでリスク評価の検討が簡単にできるようになったのです。

2023年に提唱、最新概念「SLD」
2023年6月、欧米の学会(国際コンセンサス)から新たな分類「SLD(脂肪性肝疾患)※」が提唱されました。これは、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積された状態を指す包括的な概念です。従来の呼び名に代わる、新しい概念の大枠といえます。
このように脂肪肝の概念が見直された背景には、大きく2つの課題がありました。一つは、従来の「NAFLD(非アルコール性〜)」という名称が、代謝異常という病態の本質を十分に反映しきれていないこと。もう一つは、”alcoholic(アルコール性)”や”fatty(脂肪性)”といった表現が、患者へのスティグマ(偏見や社会的な障壁)となり得ることです。
こうした流れを受け、現在はSLDという枠組みのもと、原因に基づき再定義された5つの病型への移行が進んでいます。その中核を成すのが、代謝異常を背景とする「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)※」です。飲酒量のみにとらわれない世界基準の導入により、患者一人ひとりの背景に寄り添った診断と治療が今後さらに期待されます。
※SLD(steatotic liver disease):肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積された状態を示す、包括的な疾患概念。
※MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease):代謝異常を背景とする代謝機能障害関連脂肪性肝疾患。
脂肪性肝疾患「SLD」は5つに分類
包括的な概念の大枠である「SLD」は、原因や背景に応じて5つの病型に分類されます。なかでも重要なのが代謝異常を伴う「MASLD(マッスルディー)」で、その後の「MASH(マッシュ)」から肝硬変、肝がんへと進行する可能性も否定できません。これらの病型は、互いに独立したものではく、連続的に悪化しうる一連の流れとして捉える必要があります。

「MASLD」代謝機能障害関連SLD
肝脂肪の蓄積に加え、1つ以上の心血管代謝リスク因子を併せ持ち、過度の飲酒習慣がない場合に「MASLD」と診断されます。日本におけるMASLDの有病率は2024年時点で、男性30.3%、女性16.1%です。多くの場合で自覚症状がないまま進行するため、診断時には、すでに肝臓の線維化が進んでいるケースも少なくありません。
これまでの「MAFLD」とのちがいは、その呼称の3文字目にあたる“fatty(脂肪性)”と“steatotic(脂肪化)”です。前者は、脂肪性という言葉が持つ差別的な印象(スティグマ)のために改名されました。
MASLDは、単純な脂肪肝から炎症を伴う「MASH(代謝機能障害関連脂肪性肝炎)」、さらには肝硬変へと進行します。MASHで見られる、細胞が風船のように膨らむ「風船様変性(バルーニング)」は特にがん化のリスクが高く、早期の対処が将来の健康寿命を大きく左右するといえるでしょう。
2024年には、世界初となるMASH治療薬「レスメチロム」が米国で承認されました。しかし、その有効率は約30%に留まり、薬の価格が高額であるといった課題も。一方、国内ではまた別の治療薬の開発が進行中で、期待が寄せられています。
また、肝線維化は肝疾患による死亡リスクを高めるだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管イベントとも密接に関わる重要な因子です。
したがって、MASLDにおける肝線維化の状態を正確に評価し、早期発見やハイリスク層を特定する体制づくりが、今まさに求められています。
※MASH(metabolic dysfunctionassociated steatohepatitis):炎症と肝細胞障害を伴い、肝組織にはバルーニング(風船様変性)と小葉性炎症が特徴的にみられる、代謝機能障害関連脂肪性肝炎。
「MetALD」代謝機能障害アルコール関連肝疾患
肝脂肪の蓄積に加えて1つ以上の心血管代謝リスク因子を持ち、なおかつ中等度(男性30g~60g/日、女性20 g~50g/日)の飲酒習慣がある場合は「MetALD(メットエーエルディー)」と診断されます。これは、MASLDの主な要因である「代謝機能障害」に「アルコール摂取」という2つ目の要因が重なった状態。簡単に言うと、二重に負荷がかかっている病型です。
複数の研究により、MetALDは代謝異常のみのMASLDよりも、肝細胞がんの発症リスクや肝疾患による死亡率が有意に高いことが明らかになっています。
これまでは「非アルコール性」か「アルコール性」かの二者択一で分類されてきましたが、現実にはその両方が複雑に関与している例も少なくありません。MetALDという新たな病型が定義されたことで、こうした重複リスクを抱える人に対しても、より実態に即した適切な介入が検討できるようになったのです。
※MetALD(metabolic dysfunction-associated alcohol-related liver disease):代謝異常とアルコール摂取の両方が関与する代謝機能障害アルコール関連肝疾患。

「ALD」アルコール起因の肝疾患
「ALD」は、心血管代謝リスク因子の有無に関わらず、高度の飲酒習慣によって脂肪肝(SLD)を発症している場合に診断されます。以前は「アルコール性肝疾患」と呼ばれていた病型です。MASLDと同様に、アルコールという言葉が持つ差別的な印象のために改名されました。
ここ20年間の研究によってALDの理解は飛躍的に進歩を遂げたものの、依然としてその病態には解明し切れていない部分も多く残されています。しかし、ALDが単なる「脂肪の蓄積と変性」に留まらないことは明らかです。アルコール関連脂肪肝炎「ASH」や肝硬変、さらには肝細胞がんへと進行させる重大な要因であることに間違いありません。
実際、ASHである人の8~20%が肝硬変へ進行し、さらにそのうちの3~10%が肝細胞がんを発症すると報告されています。また、ALDである人が短期間に大量の飲酒をした場合、急性アルコール関連肝炎「AH」を発症することも。これは、胆汁のうっ滞による黄疸(おうだん)を伴い、慢性的な肝障害を一気に悪化させる極めて危険な状態です。
※ALD(alcoholassociated liver disease):高度の飲酒習慣に起因するSLDで、心血管代謝リスク因子あるいはSLDを引き起こす他の疾患を併せ持つ病態。スティグマを払拭するため、“アルコール”という言葉は使わないことが推奨されている。

「S-SLD」特定の原因があるSLD
「S-SLD(特定成因脂肪性肝疾患)※」は、代謝異常や飲酒以外に、明確な原因があって生じる脂肪肝を指します。これまでの概念では、薬の副作用によってSLDを伴う肝障害や、単一の遺伝子疾患によって起こるSLDを適切に分類しきれていない面がありました。
最新概念の登場により、こうした特定の原因を切り分けて見分けられるようになったのです。原因を詳しく特定することで、多面的な視点からの治療介入が可能になると期待されています。
※S-SLD(specific aetiology SLD):薬剤性あるいはWilson(ウィルソン)病といった単一遺伝子疾患などに起因するSLD。
「Cryptogenic SLD」原因不明のSLD
「Cryptogenic SLD(クリプトジェニック・エスエルディー)」は、日本語で「成因不明脂肪性肝疾患」と呼ばれます。その名の通り、詳しい検査をしても原因が特定できない脂肪肝を指し、メタボリックシンドロームの基準のいずれも満たさない場合に診断される病型です。
具体的には、MASLDの要件である「心血管代謝リスク」や、ALDの主な原因である「過度の飲酒」が認められないケースが該当します。さらに、薬の副作用や単一の遺伝子疾患といった「特定の原因(S-SLD)」も除外された状態です。
最新概念を早期介入につなぐ「奈良宣言」
こうした国際的な最新概念の整理を受け、日本肝臓学会は2023年11月、脂肪肝の早期発見と治療を推進する「奈良宣言」を発表しました。この宣言の大きな目的は、自覚症状のないMASLDを健康診断などの身近な検査で効率的に見つけ出し、専門医療機関へとつなぐ明確な基準を確立することにあります。
具体的には、「ALT※」や「FIB-4 index※」、「血小板数」といった日常的な血液検査の項目を組み合わせた、段階的な検査方針が提唱されました。まずは、健康診断などでALTが30(IU/L)を超えた場合に、かかりつけ医による評価を推奨します。さらに代謝リスクを持つ人に対しては、肝線維化のリスクを測る「FIB-4 indexが1.3以上」または「血小板数が20(万/μL)未満」の場合に、消化器内科などの専門医へ受診を促す仕組みです。
この基準の妥当性は、すでに複数の国内研究で示されています。たとえば、肝組織を採取して詳しく調べる「肝生検」のデータにおいても、これらの指標を組み合わせることで、中等度以上の肝線維化を高精度に識別できることが裏付けられました。
このように、身近で汎用的な指標を用いる「奈良宣言」の方針は、MASLDのなかでもリスクの高い層への早期介入の土台となり、ひいては脂肪肝の重症化予防を大きく進展させることが期待されています。
※ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):以前はGPTと呼ばれていた主に肝臓に含まれる酵素で、肝細胞が壊れると血液中に漏れ出すため、肝機能のダメージを測る代表的な指標の一つ。
※FIB-4 index(フィブフォー・インデックス):血液検査の結果(ALT、AST、血小板数)と年齢を組み合わせた計算式により、肝臓の「線維化」の程度を推定する指標。
※血小板数:血液を固める働きをする成分で、肝臓の線維化が進んで肝硬変に近づくと、この数値が減少する傾向がある。
「検体測定室」ではALTも測定可能
一般に、健康診断や人間ドックなどで用いられるALTの基準範囲は、女性で下限7~23(U/L)、男性で10~42(U/L)と、ある程度の幅があります(JCCLS共用基準範囲)。そのため、肝機能の項目が「要経過観察」と判定されていても、つい「まだ大丈夫(セーフ)」と捉えてしまいがち。しかし、「奈良宣言」が示す通り、ALTが30(IU/L)を超えている状態は、肝臓からSOSが出ているサインかもしれません。
年に1回以上の健康診断を前提としつつ、その間の数値の変化が気になる人には、全国の薬局やドラッグストアなどに設置されている「検体測定室」の活用がおすすめです。「肝機能」の測定を掲げる事業所では、指先からの採血で、ALTの値をわずか数分間でその場にいながら知ることができます。
さらに、検体測定室では、MASLDの診断基準に関わる血糖(HbA1c)や脂質(中性脂肪、HDLコレステロール)といった代謝異常に関する項目も測定可能です。
検体測定室における対応項目は施設によって異なるため、事前に公式サイトなどで調べ、電話で確認してから訪れるようにしましょう。2025年12月24日時点では、全国で3か所の施設でALTの検査に対応していることが「ゆびさきセルフ測定室ナビ」(検体測定室連携協議会)で情報公開されています。
検体測定室の探し方については、既存記事『(一般の方むけ)検体測定室の検索方法&薬局の活用法』で紹介していますので参考にしてください。
あわせて、ALTの推移をスマートフォンなどで管理できるPHR(パーソナルヘルスレコード)※アプリを活用するのも有効な手段です。生活習慣の改善効果がグラフなどで可視化できれば、健康管理へのモチベーション維持にも繋がります。
※PHR(パーソナルヘルスレコード):個人の健康・医療・介護に関する情報の総称、またはそれを管理する仕組みのこと。

まとめ|概念の変遷が意味すること
かつては「お酒を飲まない人の脂肪肝」と一括りにされていたNAFLDは、今や代謝異常を本質とする「MASLD」へと再定義されました。こうした概念の変遷は、脂肪肝が単なる「食べ過ぎ」や「運動不足」の結果に留まらないこと、そして病型ごとに原因を究明し、適切な対処が必要であることを意味しています。加えて、名称から差別的な印象を排除することで、一人でも多くの脂肪肝患者が自覚症状のない早期のうちから、専門医療機関へアクセスしやすくなるような環境づくりの意図も含まれています。
脂肪肝の一部は炎症を伴うMASHやASHを経て、肝硬変や肝がんへと深刻な進行を辿るため、いかに早い段階でその連鎖を食い止めるかが重要です。
まずは、定期的な健康診断を欠かさないこと。そして、検体測定室やPHRアプリといった身近な資源も活用しながら、自らの数値を把握し、未病の段階から対策を実践していきましょう。重症化のリスクを「芽のうちに摘む」という主体的な姿勢が、将来の健康寿命を大きく左右するといっても過言ではありません。
この記事は、2026年1月31日時点の情報です。


