「なぜか最近、痩せにくくなってきた…」。実は、大人の代謝が落ちる原因は、熱産生を担う褐色脂肪細胞とよく似た機能を持ちつつも、細胞の由来や体内における分布が異なる「ベージュ脂肪細胞」が鍵を握っています。この細胞はひと言でいうと「エネルギー産生を介さずに素早く脂肪を燃焼させる」細胞です。
ここでは、「代謝」に関する基礎概念から、エネルギー消費と基礎代謝の関係、「白色脂肪細胞」「褐色脂肪細胞」「ベージュ脂肪細胞」という3つの違いまで解説します。効率よく理想の体型を手に入れるために、「代謝が落ちる原因」の情報整理としてお役立てください。
そもそも「代謝」とは
代謝そもそも「代謝」とは(Metabolism)とは「生体内で起こる化学反応の総称」です。私たちは、食事から栄養を取り込み、それを分解・合成することで生命を維持しています。この一連のシステムが代謝で、大きく分けて次のような種類が挙げられます。
- 「基礎代謝」生命維持のために安静時でも消費されるエネルギー
- 「エネルギー代謝」糖質・脂質・タンパク質から活動の源となるエネルギー(ATP)を作る働き
- 「糖代謝」ブドウ糖をエネルギー源として利用したり、貯蔵したりする働き
- 「脂質代謝」脂肪を合成・分解したり、貯蔵したりする働き
- 「タンパク質代謝」筋肉や臓器の材料を作り替える働き
- 「新陳代謝」古い細胞を新しい細胞へと入れ替え、組織を健康に保つ働き(ターンオーバー)
こうした、体内で物質を変化させるさまざまな化学反応が起こることで、私たちの体は活動エネルギーを生み出すことができます。膨大な数の機能を維持しながら、それぞれの取り組みに見合った体を作っていくことができるのも、すべて代謝のおかげ。
とりわけ、ダイエットや体質改善といった視点で「代謝を上げる」「代謝が落ちる」という表現が用いられる場合、その多くは「基礎代謝」を指しています。注意したいのは、基礎代謝は決して独立して働いているわけではないということ。
例えば、基礎代謝が落ちる原因の一つとして、筋肉量の減少がよく知られています。この筋肉量を左右するのが「タンパク質代謝」です。
また、基礎代謝が安静時にきちんと働くためには、心機能や呼吸機能、体温調節など、すべての生命維持活動においてエネルギー(ATP、アデノシン三リン酸)が欠かせません。しかし、肥満や運動不足などにより「糖代謝」や「脂質代謝」が乱れると、「エネルギー代謝」も本来の機能を発揮しにくくなり、結果として基礎代謝が落ちてしまう可能性があります。
つまり、「代謝」とはいくつもの化学反応が緊密に連携して成り立っているという認識を持つことが、効率的な体質改善への第一歩といえるでしょう。

エネルギー消費と基礎代謝の関係
効率的な体質改善を目指す場合、「代謝」と並んで注目を集めるキーワードが「エネルギー消費」です。例えば、肥満状態にある人が痩せたいとき、より多くのエネルギーを消費するために運動が適していることは、誰もが知るところでしょう。
ヒトにおける1日あたりの総エネルギー消費量は、大きく「基礎代謝量」「身体活動量」「食事誘発性熱産生(DIT)」の3つに分類されます。そのほか、場合によっては寒冷刺激による熱産生や、運動後の代謝亢進(こうしん)などが加わるものの、主要な3つに比べるとその量はごくわずかです。

基礎代謝量とは
3つのエネルギー消費の中で、最も大きな割合を占めるのが「基礎代謝量」です。これは、心臓を動かす、呼吸をする、肝臓や腎臓などが働く、体温を保つといった、人が生きていくために最低限必要なエネルギーのことで、1日中横になって安静にしていても消費されます。
驚くべきは、その消費割合。人間が1日に消費する総エネルギー量のうち、実に約60%がこの基礎代謝です。つまり、運動をしていない時間であっても、私たちは生きているだけで多くのエネルギーを消費しています。

基礎代謝量の基準値は年齢や性別によって異なり、一般的に思春期をピークに、年齢とともに低下していくのが特徴です。また、同じ年齢・性別であっても、筋肉量などの体組成によって個人差が生まれます。そのため、基礎代謝を高めて「太りにくく痩せやすい体」を作るには、筋肉を維持・増量させることが重要な鍵を握っているのです。

身体活動量とは
総エネルギー消費量のうち、基礎代謝量に次いで大きな割合を占めるのが「身体活動量」です。これは、日常生活のあらゆる動きや運動によって消費されるエネルギーのことで、1日の総エネルギー消費量の約30%を占めています。
身体活動の内容は大きく2つに分類され、1つはウォーキングや筋トレ、スポーツなどの意図的な「運動」。そしてもう1つが、通勤・通学、家事、仕事中の移動、階段の昇り降りといった日常の動作に伴う「生活活動」です。
基礎代謝量が年齢や体組成によってある程度決まってしまうのに対し、身体活動量は自分の意識や行動次第で大きく変えられるのが最大の強みといえるでしょう。
ただ、スケジュール調整の必要な「運動」を毎日行うのは、とても難しいもの。一方で、「生活活動」を増やすためのちょっとした工夫なら、日常生活の中で多くの選択肢が見つかります。日頃から、すこし遠回りして目的地に向かう、こまめに動く、階段をつかうといった意識を持つことで、1日のエネルギー消費量を底上げしましょう。

食事誘発性熱産生(DIT)とは
総エネルギー消費量のうち、残りの部分を占めるのが「食事誘発性熱産生(DIT;diet-induced thermogenesis)」です。これは、食事をした後に安静にしていても代謝量が増える現象のことで、1日の総エネルギー消費量の約10%を占めています。食後に体がポカポカと温かくなるのは、この働きによるものです。そのメカニズムには、栄養素の消化・吸収といった活動による熱の産生や、自律神経系を介したエネルギー消費量の増大が深く関わっています。
この熱産生量は、摂取する栄養素の種類によって大きく異なるのが特徴です。一般に、脂質のみを摂取した場合は摂取エネルギーのうち0~3%、糖質のみの摂取では5~10%であるのに対し、タンパク質のみの摂取では20~30%という高い割合のエネルギー消費が起こると考えられています。
また、ヒトでは昼食や夕食後よりも朝食後にこのエネルギー消費量が高くなることや、「美味しい」と思って食べるとエネルギー消費量が増えるといった興味深い実験結果の報告も。
つまり、日頃の食事でタンパク質を意識して摂取することはもちろん、朝食を抜かないこと、そして、よく噛んで食材の持ち味を感じながら「美味しく食べる」ことが、消費エネルギーを増やすことにつながるのです。

代謝が落ちる原因
多くの人が年齢とともに「痩せにくくなった」「太りやすくなった」と感じるのは、まさに代謝の低下が原因です。代謝が落ちると、摂取したエネルギーが消費しきれずに、脂肪として蓄積されやすくなるといった悪循環も招きかねません。
この代謝の低下を引き起こす背景には、加齢にともなう体の変化だけでなく、日々のライフスタイルも密に関係しています。効率的な体質改善を目指すために、代謝が低下する「3つの主な原因」について押さえておきましょう。
加齢による筋肉量の低下
加齢に伴う筋肉量や筋力(主に骨格筋)の低下は、運動などによるエネルギー消費、すなわち「身体活動量」が減少していく大きな要因です。さらに、加齢によって各臓器における代謝率そのものも落ちるため、連動して「基礎代謝量」も低くなってしまうと考えられています。
現に、日本人を対象とした調査報告(令和5年)によると、おおよそ40~50歳代を境に、複数の部位で臓器の重量そのものが減量していることが明らかになりました。加えて、まさにその世代を境にして、筋肉量(骨格筋量)と身体活動量もともに減少していくことが示されています。

前述の通り、1日の総エネルギー消費量の中でいちばん高い割合を占めるのは「基礎代謝量」で、これを支えているのが、安静時でも活発に働いている臓器や組織の数々です。しかし、その安静時代謝量は、臓器や組織によって大きく異なります。
一般に筋肉(骨格筋)は、全身の約3割を占める重量(kg)であるにも関わらず、その安静時代謝量は肝臓や脳と同じくらい(約20%)。一方、加齢にともなって蓄積しやすい傾向にある脂肪の安静時代謝量は、筋肉の5分の1程度に過ぎません。そのため、たとえ脂肪が増えたとしても、代謝の向上にはつながりにくいと考えるのが現実的でしょう。
こうした筋肉量の減少や、各臓器・各組織の代謝率の低下といったさまざまな要因が組み合わさることによって、歳を重ねると1日当たりの総エネルギー消費量、すなわち「代謝」の低下が引き起こされるのです。
活動量の減少
デスクワークや車移動、リモートワークの普及に加え、スマートフォンの利用時間が増加した現代。私たちは意識しないと、すぐに活動量が不足してすまう環境に置かれています。
事実、わが国の「国民健康・栄養調査報告(令和元年)」によれば、20歳以上の歩数の平均値は男女ともに年々、低下傾向にあります。また、運動習慣(1回30分以上、週2回以上、1年以上継続)のある人の割合は男性が33.4%、女性が25.1%に留まり、依然として全体の半数にも満たないという事実が明らかになりました。

さらに見逃せないのが、「座位行動(座りっぱなしの生活)」という比較的新しい概念です。「国民健康・栄養調査(平成25年)」によると、平日1日のうち座っている合計時間が「8時間以上」と答えた人は全体の3割を超えており、世界20カ国を対象とした調査でも、日本人の座位時間は突出して長いことが報告されています。
前述の通り、「身体活動量」は総エネルギー消費量のうち約30%を占める重要な要素です。便利なライフスタイルと引き換えに、無意識のうちに歩かない時間や座りっぱなしの時間が増え、代謝の低下を招いていないか振り返ってみましょう。
「褐色脂肪組織」の減少
代謝が落ちる3つ目の原因として近年注目されているのが、体内で熱を生み出す特殊な脂肪である「褐色(かっしょく)脂肪組織(BAT;brown adipose tissue)」の減少です。「脂肪組織」とは脂肪細胞の集まった組織のことで、そこを構成する脂肪細胞の種類によって、脂肪組織が持つ機能は変化します。
一般的な脂肪である「白色脂肪細胞」で構成された組織は、エネルギーを蓄えるだけでなく、全身の「糖代謝」や「脂質代謝」などにも深く関わっています。具体的には、ホルモンやアディポカイン(生理活性物質)の産生や分泌です。これを介して、血糖値を下げるインスリンの効きやすさ(インスリン抵抗性)を調節する働きは、脂肪の燃焼や蓄積のメカニズムを考える上で欠かせません※。
これに対して「褐色脂肪細胞」は、特異的なタンパク質(UCP1など)の働きを介して熱を産生し、体温調節を担うというのが大きな特徴です。すでに50年以上前から新生児に多く存在することは知られていましたが、現代ではPET-CTを用いた研究により、成人にも首や鎖骨周辺などに存在することが確認されています。
詳しくは次の章で紹介しますが、加齢にともない熱を産生する脂肪細胞の働きが衰えたり、熱産生のスイッチを押すために必要な交感神経の刺激が少なくなったりすることも、代謝が落ちる原因の一つとして押さえておきましょう。

※「インスリン抵抗性」「糖代謝」「脂質代謝」については、既存記事【脂肪と「インスリン抵抗性」「脂肪肝」「肥満症」「アディポカイン」の関係】を参考にしてください。
3種類ある脂肪細胞の特徴
これまで「脂肪」といえば、エネルギーを蓄えて太る原因になるものというイメージが一般的でした。しかし近年の研究により、私たちの体内にはそれぞれ全く異なる特徴を持った「3種類の脂肪細胞」の存在が明らかになっています。

白色脂肪細胞とは
白色脂肪細胞は、大きく分けて2つの側面を持っています。一つは、体脂肪としてエネルギーを蓄える機能。これは1800年代から広く知られてきた役割で、余ったエネルギーを中性脂肪として保存し、必要に応じて全身へと送り出す役割を担います。そしてもう一つが、1980年代以降に明らかになってきた、アディポカインと呼ばれる生理活性物質の産生と分泌です。
私たちの生存に不可欠な細胞ではあるものの、過剰に肥大化すると、慢性的な炎症を引き起こす物質を分泌したり、インスリン抵抗性を悪化させたりする原因になるため、適度な量を維持しておくことが重要です。
白色脂肪細胞に関する詳しい解説については、既存記事【脂肪と「インスリン抵抗性」「脂肪肝」「肥満症」「アディポカイン」の関係】もぜひ参考にしてください。

褐色脂肪細胞とは
褐色脂肪細胞は白色脂肪細胞とは異なり、細胞内に圧倒的に多くのミトコンドリアを含んでいます。最大の特徴は、そのミトコンドリアの内膜(クリステと呼ばれるヒダ状の構造)に、熱産生の舵取りを行う特異的なタンパク質「UCP1(uncoupling protein 1)」が存在するという点です。
ミトコンドリア自体は白色脂肪細胞にも含まれているものの、その数は多くありません。
私たちが寒さを感じると、交感神経からノルアドレナリンが分泌され、それを引き金に遊離した脂肪酸がUCP1に結合。これがミトコンドリア内膜の性質を変化させることで、素早く熱を作り出し、体温を維持しようとします。
また、このシステムは寒冷刺激だけでなく、唐辛子成分(カプサイシンなど)や魚油(EPA・DHA)の摂取、さらには適度な運動による筋肉への刺激でも、スイッチを入れることが可能です。
UCP1の具体的な作用としては、ミトコンドリアが通常、エネルギー(ATP)を産生するルート(酸化的リン酸化)に介入し、そのエネルギーを「熱」へと強制的に切り替えるように働きます。すると、本来ならエネルギーに生まれ変わるはずだった水素イオン(H+;プロトン)が、エネルギー産生ルートから外れて内膜をすり抜け、その際に凄まじい熱を生み出すことに。専門的にはこれを「脱共役(だつきょうやく)」と呼びます。
もっと簡単にいうと、UCP1は「エネルギー(ATP)を作る」という何段階ものプロセスをすっ飛ばし、体内の脂肪をダイレクトに使ってエネルギーを消費できるのです。こうした素早い脂肪燃焼メカニズムを持つUCP1は、エネルギー消費の側面から見た肥満対策の救世主として、いま世界中から大きな注目を集めています。

ベージュ脂肪細胞とは
近年の研究により、白色脂肪組織も慢性的な寒冷刺激や交感神経刺激などに応じて、熱を産生する「ベージュ脂肪細胞」へと変化することが分かってきました。これを、「白色脂肪組織の褐色化(ベージュ化)」と呼びます。
この細胞は白色脂肪組織の中に現れ、形状的には褐色脂肪細胞と同じように多くのミトコンドリアとその内膜にUCP1を持ちますが、細胞の由来や分布は異なります。機能面においては、褐色脂肪細胞が急な寒さへの「急性応答」を担うのに対し、ベージュ脂肪細胞は長期の寒さに体を慣らす「慢性適応」の役割です。
その際立った特徴は、刺激がなくなると速やかに消失してしまう点と、夏に活性が低下し冬に最大となる高い可塑性(変化できる能力)を持つ点にあります。
さらに近年の研究では、UCP1に依存せず、独自に熱産生ができる機構を持つベージュ脂肪細胞の集団も分かってきました。また、褐色脂肪細胞が主に脂肪酸を消費して熱を生むのに対し、ベージュ脂肪細胞の一部のタイプでは、主に糖(ブドウ糖、グルコース)を積極的に消費して熱を産生するという事実も報告されています。
新生児に多い肩甲骨の間の褐色脂肪細胞は乳幼児期以降に急速に減少し、青年期以降になるとほぼ認められません。実は、ヒト成人の褐色脂肪組織(BAT)を構成しているのは、主にこのベージュ脂肪細胞なのです。日本人の場合、鎖骨周辺にあるベージュ脂肪細胞の加齢変化は緩やかで、成人でも約50%、50歳代でも約10%の人に保持されていると考えられています。
これらの研究報告を踏まえ、ベージュ脂肪細胞は今、大人になってからの肥満や生活習慣病対策における新たなターゲットとして大きな期待を寄せられているのです。

まとめ
加齢によるものだけに留まらない「代謝が落ちる原因」をひも解くためには、まずエネルギー消費の半分以上を占める基礎代謝や、食事誘発性熱産生(DIT)の仕組みを正しく知ることが欠かせません。なかでも、大人になってからの効率的な体質改善をかなえる鍵こそが、「ベージュ脂肪細胞」の存在です。
加齢とともに減ってしまう褐色脂肪細胞とは異なり、ベージュ脂肪細胞は日々の運動や食事のとり方、あるいは寒冷刺激といったアプローチによって、大人になってからでも増やすことができます。
「代謝を上げる」ための習慣の実践がなかなか難しいと思う人は、まずは「代謝を落としている原因」が生活の中にないか、日頃の習慣を振り返ってみると何かしらのヒントが見つかるかもしれません。エネルギーを消費しやすい体を目指し、できることから意識して、自分にあった無理のない健康管理の方法を探していきましょう。
※この記事は2026年6月30日時点における情報を基に作成しています。現状と異なる場合は、行政など信頼のあるサイト等が発信する最新情報を優先してください。


