検体測定室における針の選び方&注意点(2024.5更新版)

検体測定室で扱う穿刺針(以降、針)は、原則として本体ごと1回で使い捨てとなる ”完全ディスポーザブル”。加えて、管理医療機器として管轄の保健所に予め届け出ることや、廃棄には感染性廃棄物として一定の廃処理をおこなうことが必要です。

ここでは、針に関する抑えておきたいポイントについてまとめました。薬局など医療関係の施設内にかぎらず、多くのシーンで開催できる検体測定室だからこそ、適切な扱い方を知っておく必要があります。

(この記事は2021.10.20公開記事を更新および改変したものです)

目次

検体測定室で扱う穿刺針の ”基本”

検体測定室で手指から血液(以降、検体)を採るためにつかう針は、原則として※1、「単回穿刺針」(完全ディスポーザブルタイプの針)という本体そのものが1回で使いきりとなるタイプの針です。ペン状で先端にある針の部分だけが取り外しできるような、いわゆる”半ディスポーザブル”タイプの針を提供することは推奨されません。
これは、複数の受検者さん(以降、受検者)が自ら穿刺をおこなう検体測定室において、感染リスクに対し十分に配慮する必要があるためです。

また、使用済みの針は速やかに、 ”堅牢で耐貫通性のある” ※2 専用容器におさめて廃棄するという決まりがあります。ほとんどの針で、穿刺した直後には刺す部分が針本体に戻って見えなくなりますが、検体の付着している可能性のある針を放っておかないように注意しましょう。測定台の上に、小さな針専用の容器(ハザードボックス)を設置しておくと便利です。

※1 検体測定室では「原則として」単回穿刺針を使用することが推奨されており、本体部分が複数回に渡って使用可能な、いわゆる半ディスポーザブルタイプは推奨されていません。前者では帳簿期間が5年間、後者ではその期間が20年間という違いがあるほか、掲示物等でそれを明示する必要があります。(2023年8月17日 厚生労働省医政局地域医療計画課へ照会して確認済

PMDA(医薬品医療機器総合機構)でも穿刺器具の取り扱いについて注意喚起しています(こちらをクリックするとPMDAのページに飛びます)

※2 検体測定室に関するガイドライン(抜粋)平成26年4月9日付医政発0409第4号厚生労働省医政局長通知 第2‐10
「穿刺器具等の血液付着物の廃棄について」より

『 穿刺器具の処理については、危険防止の観点から 堅牢で耐貫通性のある容器に入れて 排出するものとする。
血液付着物の廃棄の際には、安全な処理の確保の観点から、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(平成24年5月環境省作成)に基づき 医療関係機関等から感染性廃棄物を排出する際に 運搬容器に付けることとされている バイオハザードマークの付いた容器を 原則利用するものとする。』

3つの視点で選ぶ

数十種類もある針のうち、どれを選んだらよいか?検体測定室での測定従事に慣れていれば、おそらく迷う人はすくないでしょう。
そこには、採取できる検体の量や受検者のタイプによって見極める、ある意味、経験則とも言えるような選びかたのコツ(3つの視点)があります。

選ぶ視点①|形状

形状は大きく分けて3種類。

1つ目は、不慣れの人でも簡単に刺すことのできる「上押し」タイプ。不安や恐怖から針が浮いてしまうリスクが少ないため、失敗しにくいのが特徴です。
穿刺したときに音が鳴る仕組みの針が多く、測定をサポートするスタッフ(以降、測定従事者)が穿刺後すぐに針を指から離すよう支援することもできます。これによって検体が針本体に付着し、採取が困難になってしまうこともありません。

2つ目は、穿刺部に力が加わりにくく、恐怖感のすくない「横押し」タイプ。ほかの2つのタイプとちがって、手指を宙に浮かせたまま穿刺することも容易で、力の入れ具合を自分で調節しやすいことが特徴です。
注意点としては、慣れていない人では押し付ける力が不足しがちで、穿刺の深さが浅くなってしまう可能性があるということ。この場合、適切な針の太さ(G、ゲージ)を運営責任者が選んで提供すれば問題ありません。上から押しあてる場合とちがって力が横に逃げやすいので、手がぶれないように注意しましょう。

3つ目は、穿刺ボタンのない「押しつけ」タイプ。穿刺の作業に慣れている人なら、これが最も簡単で、価格も安い上にスリムな形で廃棄にも経費がかさみません。
ただし、穿刺したときの音がしないことに加え、刺す深さについては受検者へゆだねることになるため、その手技には十分な説明と理解が必要です。

選ぶ視点②|測定する項目

測定する項目によっても必要な検体の量は変わるため、針の選択も異なります。いちばん多い量を必要とするのは肝機能の測定で、少なくとも 60μl(およそ小豆大2~3粒)ほど採取できる太さと深さの針が必要です。太さ(G※、ゲージ)でいうと、21~25Gぐらいの太めの針が適当でしょう。

次に多いのは脂質を測定する場合で、血糖(随時血糖値とHbA1c)の測定よりは多くの量が必要です。その量は 20μl(小豆大1粒)ほどで、25~28Gくらいの太さが適当でしょう。最もすくない量で測定できるのは、血糖(随時血糖値とHbA1c)。これは米粒1~2つほどあれば十分で、太さは 30Gくらい細くても心配ありません。

こうした適当な太さや深さの針を選ぶことに加え、必要な量を採取するには正しい手技の習得や、手指を温めるといった前処置も大切です。

※G数は数字が小さいほど太いことを示しています。

選ぶ視点③|LOT(発注単位)

針には使用期限もあります。購入する(仕入れる)ときには、見込んだ期間で使い切れるかどうかを考えることも必要です。ものによっては、最小ロットが100個を超えるものも。ほんの少しだけ使って、あとは未使用で感染性廃棄物として経費のかかる廃棄とならないように考えて選びましょう。

受検者さんの満足度を上げるために

検体測定室で受検者自らが針を選べるというケースは、そう多くないでしょう。その理由は、使用期限や廃棄などの管理が必要な上に、針ひとつ毎に手技や支援の方法について測定従事者が熟知しておく必要があるから。
しかし、受検者にとって穿刺の作業は検体測定室でおこなう全行程のうち、もっとも緊張と不安を伴うシーンです。
たとえば、「どのような仕組みの針か?」「どのような音がするのか?」「押す力はどのくらい必要か?」というような内容を熟知し、受検者が不安に感じたときには適切なアドバイスをおこなえるよう、測定従事者は日頃からの研磨が欠かせません。

【 満足度を上げるために 】
  • 受検者の不安を察してサポートする
  • 針の構造や特徴を熟知しておく
  • 針の使用感を分かりやすく伝える

運営の前後でおこなう届出等

針に関する届出の提出先は、検体測定室の「開設届(かいせつとどけ)」を提出する先は厚生労働省医政局ではなく、開設したい場所を管轄する保健所です。書類は該当する保健所の公式ホームページからダウンロードすることができます(「管理医療機器販売業・貸与業」”様式八十八”)。これを正副2通で作成し、保健所を訪問するときは万が一の修正にも備えて印鑑も持参すると安心です。

保健所では、各資格を証明する免許証等の原本照合がおこなわれます。原本とともに、控え(写し)も忘れずに持参しましょう。
届出用紙には医師、歯科医師または薬剤師のほか、検体測定室の運営責任者として届け出ている看護師や臨床検査技師を管理医療機器営業管理者として1名、記入する必要があります。ただし、ほかの施設で既に責任者として届け出ている人は、この管理者になることが出来ません。

地域によっては、期間を定めて開設する検体測定室(いわゆるイベント等で単発的な設置)の場合でも終了してから届け出「廃止届」が必要となることもあります。これは、郵送でも可能な地域があるため、開設の届け出をおこなうときに予め確認しておくとよいでしょう。

まとめ

検体測定室で用いる針は測定する項目はもちろん、受検者と測定従事者のことも考慮して選ぶ必要があります。ただ、手技の支援や説明の方法を適切におこなえば難しいことはありません。受検者の立場に立った見方や考え方を念頭におきながら、温かいサポートができるよう取り組んでみては如何でしょうか。

※この記事は2024年5月時点の情報です。ガイドラインの改正などにより、手続きや届出等に変更がある際には現状をご優先ください。

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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