中性脂肪やコレステロールの誤解【検体測定室での解説方法~脂質編~】

2022.04.15 Fri

検体測定室で測る脂質4項目それぞれの適正値や働きを知り、目標を決めて成果をセルフチェックできるのもPOCT(Point Of Care Testing)におけるメリットの一つ。中性脂肪やコレステロールは少ないほどいいの?なぜ適正値を目指すことが大切なのか解説します。

脂質異常症など生活習慣病における基本的な知識は、40歳をこえると始まる特定健康診査(特定検診、いわゆる”メタボ健診”)などの取り組みもあって、広く知られるようになってきました。ここでは、検体測定室で測る脂質4つ(中性脂肪、悪玉コレステロール、善玉コレステロール、Non-HDLc)の解説方法や、おさえておきたい知識についてご紹介します

目次
  • 各脂質の違いは”比重”
  • ”HDL・LDL”はコレステロールを運ぶ乗り物
  • 中性脂肪は低すぎても不調をきたす!
  • 悪玉コレステロールが低いほどよい訳
  • 善玉コレステロールはメタボ健診で基準
  • Non-HDLcは食後測定でも判断ができる
  • [コラム]悪玉Choを算出するF式とは? 
  • 脂質を知ってもらう検体測定室の意義

各脂質のちがいは ”比重”

中性脂肪もコレステロールも脂質(油)の一種で、そのままでは血液に溶けません。
そこで脂質は「アポタンパク」と呼ばれるタンパク質と結合し、血液の流れにのって全身へ。この結合した粒子状のものが「リポタンパク」で大きさや比重、組成により5種類に区分されます。
脂質4つを詳しく解説するために、まずは脂質の区分となる全体像5種類をおさえましょう。
(表1 画像をクリックすると詳細をご覧いただけます)

画像をクリックすると詳細をご覧いただけます。
※1 比重はリポタンパク粒子内で占めるアポたんぱくの量。含有する脂質量が少ないほど比重は高い。

”LDL・HDL”はコレステロールを運ぶ乗り物

”LDL”というと”悪玉”を連想するひとが多いかもしれませんが、リポタンパクの ”LDL=悪玉コレステロール” ではありません。
LDLはホルモンや細胞膜などを作るために全身へとコレステロールを運ぶ、乗り物のような役割を担っています。このLDLの運ぶコレステロールが悪玉コレステロール(LDLコレステロール)。同様に、末梢血管や抹消組織からコレステロールを肝臓へもどすために活躍する乗り物がHDLです。
一般に健康診断などの血液検査では、これらLDL・HDLの乗り物(粒子)の量を反映するコレステロールの濃度を測っています。

※LPL(lipoprotein lipase):リポタンパクリパーゼ。中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセロールに分解する酵素。

中性脂肪は低すぎても不調をきたす!

(略称:TG、triglyceride、トリグリセリド
3つの脂肪酸とグリセリン1つが結合したもので、別名はトリアシルグリセロール。身体によいと言われるオメガ3系やオメガ6系脂肪酸なども、脂肪酸の一種です。
その機能は、皮下脂肪として内臓を守るクッションとなったり、血液中の糖(glucose)が足りなくなったときに身体を動かすエネルギー源となったり。いずれも私たちの身体を維持していくために、大切な役割を担っています。
健康なひとにおける適正値は30~150の範囲で、極端に少ないと持久力が低下するリスクもあるため、過剰なダイエットには注意が必要です。
食事では酸化しにくく、シンプルで新鮮な脂質を摂るようにしましょう。

悪玉コレステロールが低いほどよい訳

(略称:LDLc、low density lipoprotein cholesterol)
呼び名のなかに「悪」とあって、悪いものだと思っているひとも多いでしょう。しかし、このLDLcは細胞膜やホルモン、胆汁酸などをつくる材料のコレステロールを全身へ運ぶために必要です。私たちの身体はコレステロールを毎日、おもに肝臓と小腸で必要な量の7割以上を合成しています。
そして残りの3割が食事由来のもの。これを必要以上に多く摂ると血管壁のなかに潜りこんで、活性酸素などの作用で酸化され「酸化LDL」となり、体内の免疫を担うマクロファージに食べられます(これを貪食という)。ここで酸化LDLが多いと、マクロファージは処理しきれずにLDLを抱えたまま、血管壁のなかで機能を失って塊に。これが泡沫細胞といって、動脈硬化を引き起こす大きな原因のひとつ「プラーク」の正体です。
LDLcが80mg/dl未満のひとに比べて、140mg/dl以上あるひとの冠動脈疾患を発症するリスクは約3倍、心筋梗塞では約4倍とも言われています。

善玉コレステロールはメタボ健診で基準

(略称:HDLc、high density lipoprotein cholesterol)
各臓器で余ったコレステロールを引き抜いて肝臓に戻してくれる働きから、呼び名に「善」と付けられています。
LDLcとの大きな違いは2つ。ひとつは、働きや流れが対照的であること。もうひとつは、組成のうちアポタンパクとコレステロールの比率が逆転していることです。このHDLがコレステロールを運ぶ流れは「コレステロール逆転送系」と呼ばれ、体内のコレステロールにおけるホメオスタシスの維持に重要な役割を担っています。
さらにHDLcには近年の研究で、血管内皮機能の改善や抗炎症作用、抗酸化作用もあることが分かってきました。
健康なひとにおける適正値は40mg/dl以上で、LDLcを上回っていても問題ありません。特定健康診査(メタボ健診)における脂質異常の項目では、HDLcが40mg/dl未満であることも診断基準のひとつです。このHDLcが低くなる原因としては、喫煙や運動不足、肥満があげられます。

Non-HDLcは食後測定でも判断できる

(非高比重リポタンパクコレステロール)
総コレステロールからHDLcをさし引いた計算値で、善玉コレステロール以外の体内に存在するコレステロール量のことです。これは、HDLをのぞく4種類のリポタンパクが抱えるコレステロール量を意味しています。
悪者はLDLcだけと思われがちですが、ほかのリポタンパクが分解される過程で生じた ”残り物” にも要注意。これらの”残り物”は総量としてはわずかながらも、長時間にわたって血管内にとどまることで動脈硬化を促進することが分かっています。
そこで「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」では、このNon-HDLcも診断基準に組み込まれました。その適正範囲は、170mg/dl未満です。
また、検体測定室で測ることのできる脂質のうち、このNon-HDLcは食事の影響を受けにくいこともポイントのひとつでしょう。中性脂肪をのぞく3つの脂質(LDLc、HDLc、Non-HDLc)における、食事影響をはじめ日中の変動幅は全体の5%にもなりません。これらは、ふだんからの積み重ねによって段々と変動していくのです。

【 知っとくコラム 】悪玉コレステロールを算出する「F式」とは?

中性脂肪をのぞき、3つの脂質が食事や日内変動の影響をうけないなら、あえて血液検査を空腹状態で受ける必要はないのでは?そう感じたひともいるかもしれません。
検査の方法で、コレステロールは科学的にも純粋な標準物質※が存在し、食前や食後にかぎらず測る時点での量がわかります。しかしLDLc(LDLを反映する数値)は、リポタンパクのVLDLから連続的に作り出されているために、その組成が一定ではありません。つまり、定量するための標準物質がないのです。

そこで、次に示すような「F式(Friedewaldの計算式)」を用いると、LDLcの算出が可能になります。
ただし、このF式を適用できる条件が2つあることに注意しましょう。
(※TC:総合コレステロール)

LDLc=TC-TG/5-HDLc

<条件その1> 空腹時(最後の食事から10時間以上を経過)の採血 
<条件その2> 中性脂肪TGが400mg/dl未満であること

この2つの条件が当てはまらない場合は、きちんとしたLDLcが算出できません。これは、研究結果で相関性が保たれないとの報告があるため。
また、中性脂肪は食後2~3時間でピークをむかえ、個人差や食事内容によっても差があります。F式で中性脂肪をつかう以上、食後の測定ではLDLcの値をきちんと把握することは困難です。一方でNon-HDLcは、この条件がクリアできなくても問題なく測定できます!

※標準物質:ある物質の濃度を正確に決定したいときに使う、ものさし代わりとなる物質の濃度のこと

 

脂質を知ってもらう検体測定室の意義

脂質異常症は糖尿病や高血圧症と同じく、未病の段階では自覚する不調がありません。しかし、肝障害や糖尿病などのような脂質異常の延長上にある合併症のリスクは高く、早い段階でケアしていくことが大切です。
検体測定室でこれら脂質4つの機能に加えて成り立ちなども解説できれば、受検者さんのヘルスリテラシー向上に対し、もっと寄与できるのではないでしょうか。
すこし専門的で難しいと感じる部分は、受検者さんごとのリテラシーやご希望に応じて、情報を選ぶことも必要です。

検体測定室に期待されていることが数々あるなかで重要なのは、受検者さんの行動変容に寄与すること
すでにコレステロールや中性脂肪の治療のために服薬しているひとにとっては、薬だけに頼るのではなく、主体的に改善をめざす取り組みを考えるきっかけにもつながることでしょう。

医療機関では目的に応じたさまざまな検査があるものの、個別のニーズに応じて情報を共有する環境が十分であるとは言えません。
簡易検査をあつかう検体測定室だからこそ、これらも広く情報発信の場として活用していけたらいいですね。

 


※この記事は2022年4月時点の情報です。ガイドラインの改正などにより、手続きや届出等に変更がある際には、現状をご優先いただきますようお願いいたします。この記事が、これから検体測定室を検討する際のヒントとなりましたら幸いです。