Non-HDLコレステロールとは?【検体測定室での解説方法~脂質各論編~】

「Non-HDLc」は、”ノン・エイチディーエル・コレステロール”と読みます。コレステロールと聞くと悪玉や善玉、そして総コレステロールの3つを思い浮かべるひとも多いでしょう。Non-HDLcとは善玉コレステロール(HDLc)を除き、動脈硬化を引き起こすリポタンパク質の総量を示す値です。中性脂肪(TG)が400㎎/dL以上の場合でも指標にすることができ、測定時点の食事による影響を受けにくいため、検体測定室での測定にも適しています。

目次

Non-HDLcが注目を集める理由

Non-HDLcが「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」で、脂質異常症の診断項目に加わってから5年。2022年版の同ガイドラインでは、さらに詳しい研究や解析結果が発表されています。なかには、45歳の男性におけるNon-HDLcが190㎎/dLを境に分けた2つの群で、高い群では3倍以上も生涯のリスクが高いといった性世代別の報告も1)
ここで既存の測定項目(悪玉コレステロールや中性脂肪など)では、脂質の代謝過程で生じる中間体(レムナント)や、LDLc(悪玉コレステロール)のうち小型でコレステロールを多く含んだ比重の高い  ”sdLDLc(small dense LDLc、超悪玉コレステロール)” を把握できません。しかし、これらは酸化されやすい上に血液中で長く留まるため、動脈硬化を促進することが分かっている ”超悪玉” です

そこで、これらを含めた総合的な評価をおこなう項目として、Non-HDLcが脂質異常症における診断のほか健康診断にも追加されました。さらにNon-HDLc値は、
LDLc値よりも優れた動脈硬化性疾患の予測ができるという見解もあります1)

脂質を運ぶリポタンパク質とNon-HDLc

中性脂肪もコレステロールもそのままでは血液に溶けないため、「アポタンパク」と呼ばれるタンパク質などと結合して全身へ運ばれます。この結合した複合粒子が「リポタンパク質」です。つまり、Non-HDLcというのは ”HDL” というリポタンパク質が抱えるコレステロールを除いた、ほかのリポタンパク質が抱えるコレステロールの総量とも言えます。代表的なリポタンパク質は、「カイロミクロン」「VLDL」「LDL」「HDL」の4つです。
以前から、このようなリポタンパク質の内容や量の変化は、さまざまな疾患と関わっていることが知られていました。そして、細胞小器官の1つである小胞体※からリポタンパク質が血液中へ分泌されるしくみについても、近年の研究によって解明されつつあります。これがさらに、腸での脂肪吸収や体内で脂肪が分布するしくみ、遺伝性など脂質異常症のより詳しい解明につながると期待されているのです2)
(リポタンパクについては、別記事「中性脂肪やコレステロールの誤解|検体測定室での解説方法~脂質編~」で詳しく紹介しています)

リポタンパク構図
【リポタンパク質と脂質の流れ図】

※小胞体(ER、endoplasmic reticulum):細胞内でつくったタンパク質を折りたたみ、加工してから細胞外へ分泌するほか、陽イオンの貯蔵や脂質の合成、その他の代謝や解毒などをおこなう膜状の構造物。

Non-HDLcの測定と基準値

Non-HDLc値は、TC値(総コレステロール)からHDLc値(善玉コレステロール)をさし引く計算で求めることができます。基準値は、脂質異常症をもたないひとで170㎎/dL未満、脂質異常症で治療しているひとの目標値はLDLc+30㎎/dLです1)
また、検体測定室で測る脂質項目のうち、TG(中性脂肪)をのぞく3つの脂質(LDLc、HDLc、Non-HDLc)は測定時点における食事の影響や、日中の変動幅がほとんどありません。その差はあっても、わずか5%程度と言われています。
注目したいのは、TG値(中性脂肪)が400㎎/dL以上の場合でもNon-HDLc値は指標にできるということ。ただし、TG値が600㎎/dLを超えるときには正確性が担保できないため、医療機関でほかの評価方法を検討する必要があります3)

検体測定室において、測定時に食事制限を設ける必要がないのは大きなメリットです。ただ、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022」では空腹時の採血に加えて随時採血におけるTG値の基準も追記されました。これにより、測定に対するハードルがひくくなったという見方もできるでしょう。

脂質の基準値と検体測定室での対応

また、Non-HDLcはTCと同じく、TGの増加にともなって増えることが分かっています。とくに、TG値が550㎎/dL以上ではリポタンパク質の代謝が遅くなることで、「LDL」よりも「VLDL」に含まれるコレステロールが増えるという研究報告も4)。これは、「LDL」を見るだけでは評価しきれない、”超悪玉”が増えるリスクを意味しているとも言えるでしょう。
つまり、Non-HDLcの測定はLDLc(悪玉コレステロール)ばかり注視しがちな受検者に対し、こうした情報を共有しながら必要に応じて
受診勧奨(かんしょう)をおこなうきっかけにもなるのです。

検体測定室でのNon-HDLc解説方法

ここで、HDLc(善玉コレステロール)については動脈硬化を防ぎ、遺伝的な体質のために100㎎/dL近くあっても問題はないということが浸透しつつあります。さらに、血管内皮機能の改善や抗炎症作用に加えて抗酸化作用などもあることが研究で示され、リコピンやオメガ3脂肪酸などの機能性表示食品を通じ、HDLcは身近な存在になってきました。
一方で、Non-HDLcについては、まだ詳しく知らないひとがほとんどでしょう。ひとによっては、「今は空腹時ではないので測っても意味がない」と、測定の機会を逃しているケースもあるかもしれません。このような場合は、測定意義に対する正しい理解と、それを解説して受検者をあたたかく支援するひとのコミュニケーション力が重要です。
検体測定室での解説では、基準値など基本的な事項のほか、次にあげるようなポイントを伝えるとよいでしょう。

Non-HDLcの解説ポイント

  • ■動脈硬化の進行を握る重要な意味をもつ
  • ■超小型LDLcや中間体を含めた総合的な評価指標
  • ■脂質異常症の診断基準や特定検診の1項目
  • ■総コレステロールが基準値でも異常値のひともいる
  • ■脂質異常症のひとは目標値を個別に設定
  • ■測定時点の食事影響や日内変動は粗ない
  • ■肥満や脂質代謝が遅いと高くなりやすい

Non-HDLcの情報提供をおこなう場

未病の段階ではこれといった不調がなく、知らないうちに進行していく脂質異常症。一方で、Non-HDLcやリポタンパク質の存在を知ることで、早い段階からの発症予防ができる時代になってきました。
健康診断や医療機関のなかで、これらの情報をひとりずつ詳しく説明して理解を得るのは、なかなかむずかしいものでしょう。対して、検体測定室では受検者さんごとのリテラシーやご希望に応じて情報を選び、共有することもできます。いちばん
重要なのは、受検者さんの行動変容に寄与すること
すでに脂質異常症の治療で服薬しているひとでは、疾患への理解を深めて主体的に改善をめざす取り組みを考える、きっかけとなるかもしれません。検体測定室は診断を供さずに、質疑応答を繰り広げることのできる場です。医療関係者においては、エビデンスを持った丁寧で寄りそう情報提供の場として活用できる場でしょう。


※この記事は2022年10月時点の情報です。ガイドラインの改正などにより内容に変更が生じている際には、現状をご優先いただきますようお願いいたします。この記事が、検体測定室を考えるかたにとって何かのヒントとなりましたら幸いです。

(参考文献等)
1)一般社団法人 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」. 平成25~27年度厚生労働科学研究「non-HDL等血中脂質評価指針および脂質異常症標準化システムの構築と基盤整備に関する研究」.
2)東京大学「リポタンパク質の分泌の仕組みの解明に新たな手がかりー小胞体膜タンパク質VMP1の新機能を発見ー. https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20190917.pdf

3)地方独立行政法人りんくう総合医療センター 日本内科学会雑誌110巻3号 「脂質異常症の検査と治療の最前線」
4)日本内科学会雑誌106巻4号「動脈硬化リスク・治療標的としてのTG,HDL」

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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