Non-HDLコレステロールとは?【検体測定室での解説方法~脂質各論編~】(2024.5更新版)

「Non-HDLc」は、”ノン・エイチディーエル・コレステロール”と読み善玉コレステロール(HDLc)を除いた動脈硬化を引き起こすリポタンパク質の総量を示す値です。中性脂肪(TG)が400㎎/dL以上の場合でも指標にすることができ、測定時点の食事による影響を受けにくいため、検体測定室での測定にも適しています。

目次

Non-HDLcが注目を集める理由

Non-HDLcは「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017」で脂質異常症の診断項目に加わり、2022年版の同ガイドラインでは、さらに詳しい研究や解析結果も示されています。なかには、45歳の男性におけるNon-HDLcが190㎎/dLを境に分けた2つの群で、高い群では3倍以上も生涯のリスクが高いいった性世代別の報告も1)
実は、既存の脂質3項目(中性脂肪、悪玉コレステロール、善玉コレステロール)では、脂質の代謝過程で生じる中間体(レムナント)や、LDLc(悪玉コレステロール)のうち小型でコレステロールを多く含んだ比重の高い  ”sdLDLc(small dense LDLc、超悪玉コレステロール)” を把握できません。しかし、これらは酸化されやすい上に血液中で長く留まるため、動脈硬化を促進することが分かっている ”超悪玉” です。

そこで、これらを含めた総合的な評価をおこなう項目として、Non-HDLcが脂質異常症における診断のほか、健康診断にも追加されました。さらにNon-HDLc値は、LDLc値よりも優れた動脈硬化性疾患の予測ができるといった見解もあります1)

脂質を運ぶリポタンパク質とNon-HDLc

中性脂肪もコレステロールもそのままでは血液に溶けないため、「アポタンパク」と呼ばれるタンパク質などと結合して全身へ運ばれます。この結合した複合粒子が「リポタンパク質」です。つまり、Non-HDLcというのは ”HDL” というリポタンパク質が抱えているコレステロールを除いた、ほかのリポタンパク質が抱えるコレステロールの総量とも言えます。代表的なリポタンパク質は、「カイロミクロン」「VLDL」「LDL」「HDL」の4つです。

以前から、このようなリポタンパク質の内容や量の変化は、さまざまな疾患と関わっていることが知られていました。そして、細胞小器官の1つである小胞体※からリポタンパク質が血液中へ分泌されるしくみについても、近年の研究によって解明されつつあります。これがさらに、腸での脂肪吸収や体内で脂肪が分布するしくみ、遺伝性など脂質異常症のより詳しい解明につながると期待されているのです2)
(リポタンパクについては、別記事「中性脂肪やコレステロールの誤解|検体測定室での解説方法~脂質編~」で詳しく紹介しています)

リポタンパク構図
【リポタンパク質と脂質の流れ図】

※小胞体(ER、endoplasmic reticulum):細胞内でつくったタンパク質を折りたたみ、加工してから細胞外へ分泌するほか、陽イオンの貯蔵や脂質の合成、その他の代謝や解毒などをおこなう膜状の構造物。

Non-HDLcの測定と基準値

Non-HDLc値は、TC値(総コレステロール)からHDLc値(善玉コレステロール)をさし引く計算で求めることができます。基準値は、脂質異常症をもたないひとで170㎎/dL未満、脂質異常症で治療しているひとの目標値はLDLc+30㎎/dLです1)
また、検体測定室で測る脂質項目のうち、TG(中性脂肪)をのぞく3つの脂質(LDLc、HDLc、Non-HDLc)は測定時点における食事の影響や、日中の変動幅がほとんどありません。その差はあっても、わずか5%程度です。
注目したいのは、TG値(中性脂肪)が400㎎/dL以上の場合でも、Non-HDLc値は指標にできるということ。ただし、TG値が600㎎/dLを超えるときには正確性が担保できないため、医療機関でほかの評価方法を検討する必要があります3)

検体測定室において、測定時に食事制限を設ける必要がないのは大きなメリットです。また、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022」では空腹時の採血に加え、随時採血におけるTG値の基準も追記されました。これは、検体測定に対するハードルが低くなったという見方もできるかもしれません。
脂質4項目における各基準値については、次の表を参考にしてください。

脂質の基準値と検体測定室での対応

また、Non-HDLcはTCと同じく、TGの増加にともなって増えることが分かっています。とくに、TG値が550㎎/dL以上ではリポタンパク質の代謝が遅くなることで、「LDL」よりも「VLDL」に含まれるコレステロールが増えるという研究報告も4)。これは、「LDL」を見るだけでは評価しきれない、”超悪玉”が増えるリスクを意味しているとも捉えることができます。
したがって、Non-HDLcの測定はLDLc(悪玉コレステロール)に注視しがちな受検者に対しても、こうした情報を共有しながら随時、
受診勧奨(かんしょう)をおこなうきっかけにもなるのです。

検体測定室でのNon-HDLc解説方法

HDLc(善玉コレステロール)については、動脈硬化を防ぎ、人によっては遺伝的な体質のために100㎎/dL近くあっても問題がないということは浸透しつつあります。また、血管内皮機能の改善や抗炎症作用に加え、抗酸化作用などもあることが研究で示されてきたことや、リコピンやオメガ3脂肪酸などの機能性表示食品も介して、HDLcは身近な存在になりつつあるとも言えるでしょう。

一方でNon-HDLcについては、まだ詳しく知らない人の方が多いかもしれません。あるいは、「今は空腹時ではないので測っても意味がない」と、測定の機会を逃している可能性も。せっかく、食後でも意味のあるNon-HDLcの測定ですから、測定意義に対する正しい理解と、それを解説して受検者をあたたかく支援するコミュニケーション力が重要です。
検体測定室での解説では、基準値などの根本的な情報共有のほか、次にあげるようなポイントを伝えるとよいでしょう。

Non-HDLc⑦つの解説ポイント

  • 動脈硬化の進行を握る重要な意味をもつ
  • 超小型LDLcや中間体を含めた総合的な評価指標
  • 脂質異常症の診断基準や特定検診の1項目
  • 総コレステロールが基準値でも異常値の人もいる
  • 脂質異常症のひとは目標値を個別に設定
  • 測定時点の食事影響や日内変動は粗ない
  • 肥満や脂質代謝が遅いと高くなりやすい

Non-HDLcの情報提供をおこなう場

未病の段階ではこれといった不調がなく、知らないうちに進行していく脂質異常症。一方で、Non-HDLcやリポタンパク質の存在を知ることで、早い段階からの発症予防ができる時代になってきました。
とはいえ、健康診断や医療機関のなかで、これらの情報を一人ずつ詳しく説明してご理解を得るのは、なかなかむずかしいもの。対して検体測定室では、受検者さんごとのリテラシーやご希望に応じて情報を選び、共有することも可能です。最も
重要なのは、受検者さんの行動変容に寄与することではありませんか?

すでに脂質異常症の治療で服薬している人では、疾患への理解を深めて主体的に改善をめざす取り組みを考えるような、きっかけにつながる期待も持てます。何より、検体測定室は診断を供さずに、質疑応答を繰り広げることのできる場。医療関係者においては、エビデンスを背景とした責任のある言動はもちろん、丁寧で寄りそう情報提供の場として活用できる場に他なりません。

※この記事は2024年5月時点の情報です。ガイドラインの改正などにより内容に変更が生じている際には、現状をご優先いただきますようお願いいたします。この記事が、検体測定室を考えるかたにとって何かのヒントとなりましたら幸いです。

(参考文献等)
1)一般社団法人 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」. 平成25~27年度厚生労働科学研究「non-HDL等血中脂質評価指針および脂質異常症標準化システムの構築と基盤整備に関する研究」.
2)東京大学「リポタンパク質の分泌の仕組みの解明に新たな手がかりー小胞体膜タンパク質VMP1の新機能を発見

3)地方独立行政法人りんくう総合医療センター 日本内科学会雑誌110巻3号 「脂質異常症の検査と治療の最前線」
4)日本内科学会雑誌106巻4号「動脈硬化リスク・治療標的としてのTG,HDL」

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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