世界糖尿病デーと検体測定室の関わり

糖尿病に対する啓蒙活動について、1年のうち最も盛んに行われるのが11月14日の世界糖尿病デーです。検体測定室では糖尿病に関する2項目の測定が出来ます。ここでは、世界糖尿病デーに関する基礎知識や啓蒙活動から、イベント型で開設する検体測定室の件数との関連、検体測定室において積極的に受検者さんへ伝えたい情報について紹介します。

目次

世界糖尿病デーとは

11月14日「世界糖尿病デー」について知っていますか?
なかには、東京スカイツリーや東京タワーが青くライトアップされることで知った、という人もいることでしょう。

世界糖尿病デーとは一言でいうと、糖尿病を正しく理解して予防や療養、偏見などについて啓発活動を呼びかける日。
11月14日は、1921年にインスリンを初めて発見したフレデリック・バンティング博士の誕生日で、1991年にIDF(国際糖尿病連合)とWHO(世界保健機関)が制定し、2006年に国連総会で公認されました。
以来、この日は正式な国連デーとして、世界各地の著名な建造物でブルーライトを灯す行事や、さまざまな啓発活動がおこなわれています。

また、薬局や病院などの医療機関では地域の住民むけに、糖尿病に関して理解を深めるような講習会やイベントを提供している所も。とくに検体測定室は、普段は常設していない薬局でも期間を限定して開設する、いわゆる”イベント型検体測定室”を提供し、啓発活動に率先して取り組んでいる所も多く見かけます。

出展:神奈川県 公式ホームページ「世界糖尿病デー“ブルーライト県庁”」より https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz6/cnt/f533784/p1086540.html

シンボル「ブルーサークル」とテーマ

(画像)出展:世界糖尿病デー実行委員会 https://www.nittokyo.or.jp/modules/information/index.php?content_id=50

シンボルである青い丸のモチーフ「ブルーサークル」は、2007年から世界各地で掲げられているもので、どこまでも続く空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を表現しています。そして、キャッチフレーズに掲げられているのは、”Unite for Diabetes” (糖尿病との闘いのため団結せよ) 。

日本を含む、世界的に増え続けている糖尿病に対する意識を高め、一致団結して対策していく必要性を呼びかけるために掲げられています。これに、世界170の国と230以上の地域を統括して糖尿病コミュニティを主導する国際糖尿病連盟(以降、IDF)が設けた、2021~2023年の世界糖尿病デーの共通テーマは、「糖尿病治療へのアクセス (access to diabetes care)」。

このテーマが設定された背景にあるのが、世界中の成人の10人に1人が糖尿病を患い、その90%以上が2型糖尿病だということと、半数近くはまだ診断さえされていないという現状です。
しかし、2型糖尿病はその介入や治療が早ければ早いほど、のちの合併症リスクも低く抑えられることが分かっています。

その重要性を伝えるべく、IDFは共通テーマに加えて以下の3点を盛り込んだ、「リスクを知り、対応を知れ」という2023年のスローガンも掲げています。

  1. 2型糖尿病のリスクがある人にとって重要なのは、予防・早期診断・タイムリーな治療を行うために、自分のリスクとすべき内容を知ること。
  2. 糖尿病とともに生きる人にとって、セルフケアをサポートするための正しい情報と、薬やツールに対する認識およびアクセスが不可欠。
  3. 医療専門家が合併症を早期に発見し、可能なかぎり最善のケアを提供するために、十分なトレーニングとリソースへのアクセスが必要。

提供するアクセスやツールを考える

糖尿病に対する啓発活動を行うには、しっかりとした準備も必要です。たとえば、糖尿病に関する知識や予防するために必要な生活習慣といった情報発信から、早期診断につなげるための手段など。
とくに、検体測定室で測定を行った結果、受診勧奨に至る場合には注意が必要です。なぜなら、基準値と逸脱する値を呈する人には、定期的に健康診断や健康診査を受けていない人が多いから。すでに、2型糖尿病のリスクがある人にとって、治療を先延ばしにするようなことは避けたいものです。

そのため、医療専門家においては、個々のニーズを可能なかぎり満たしてあげられるようなアクセスを提案することも必要でしょう。加えて、本来は受診すべきと分かっていて、受診していない人に対する配慮も忘れてはいけません。糖尿病のスティグマは、まだ根強く社会に存在しています。
様々な偏見があって、「糖尿病だなんて診断されたくない」と考えている人に対し、いかにして自分のリスクに気付いてもらい、今すべき対応を考えていただくかが重要です。

さらに、アクセスというのは受診に関わることだけでなく、正しい情報を得るための方法も含まれます。医療の進歩は目覚ましく、糖尿病に関する治療や情報も例外ではありません。
より新しく、信頼できる方法で情報を身に付けられる手段を提案することも、啓発活動において欠かせません。

検体測定室と世界糖尿病デー

1年間のうち、血液測定イベントや健康測定イベントとして、単発的な(期間を限定して開設する)検体測定室の申請件数が増えるのは、5~6月と10~11月の年2回です。後者にあたるのが、まさに世界糖尿病デーの前後。コロナ禍に入る前は、最大で1月に167件も開催されていました。


2021年はインスリン発見から100周年という節目の年ながらも、感染症拡大予防のためにイベント開催を自粛する所も多かったのでしょう。
2023年5月、COVID-19による新型コロナウイルス感染症が5類へ移行してから、徐々に開設数は回復しつつあるものの、コロナ禍前と比べるとその差は歴然です。

多くのシーンで開設できる検体測定室の有用性

血液検査というと、薬局など医療機関を想像する人も多いかもしれません。しかし、検体測定室の開設できる場所は医療機関にかぎらず、一定の条件をクリアすれば設置することが可能です。街のイベントや商業施設、企業内における研修など、生活者により身近なシーンで、広く糖尿病に対する啓発活動をおこなえます。

見方を変えてみると、検体測定室は自ら自分の指を針で刺して血液を採取するという特性上、糖尿病患者さんの不安や痛みを共有できるといったメリットも。社会のなかではびこる偏見や誤解を解くには、一人でも多くの人で糖尿病に対する認識を整えていくことが必要です。
そこには、医療専門家のコミュニケーションも要となり得るため、適切なアクセスを用いて継続するトレーニングも欠かせません。

糖尿病についての正しい知識を社会に広げるとともに、糖尿病の検査や治療へのハードルを下げ、早期の治療開始を可能にする検体測定室の普及が望まれています。


※この記事は2024年1月時点の情報です。ガイドラインの改正等で情報に相違のある際には、現状をご優先ください。

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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