HbA1cと血糖値の違い【検体測定室での説明~血糖編~】(2023.3更新版)

医療従事者にとって当たり前の情報や知識は、一般的に認識されているものと一致しないこともあります。HbA1cや血糖値など、検体測定室で扱う項目もその一つでしょう。
受検者さんへの説明は、細かくなりすぎても犬猿されがちですが情報は正しく、かつ、誤解をまねくことのないように伝える必要があります。

今回は、血糖に関する説明の仕方について、よくある誤解
とともにまとめました。
(この記事は2021.12.8公開記事を更新および改変したものです)

目次

”血糖値“における「認識」の違い

検体測定室で「糖」に関する測定項目は、HbA1cと随時血糖値(略称:Glu、BS)の2つ。検査値の基礎知識を持つひとなら、この2つの違いは容易に分かるでしょう。
しかし、糖尿病を患うひとやその関係者、ほかの疾患からの合併症や副作用で血糖が上昇しているといった要因が
なければ、知らないひとがほとんどかもしれません。
現に、検体測定室でこの違いを理解されている受験者さんは、前述に挙げるようなひとが多い印象です。

一方の医療機関では、医師の診察のもとで糖尿病を診断(あるいは治療)するためにおこなう6つの(血液)検査項目があります。この中で ”血糖値“ と呼ばれるのは、「空腹時血糖値」と「随時血糖値」、そして「75gOGTTによる血糖値」の3つです。この3つは、測定時点で血液中にあるブドウ糖(glucose)の量を測ります。
それ以外の検査項目で測定する対象はブドウ糖ではありません。これらの検査は診断や治療をおこなう上で必要に応じ、ひとつか複数を組み合わせて実施します。

  • 空腹時血糖値
    (略称:FPG、fasting plasma glucose)
    最後の食事から10時間以上あけて測る血糖値のこと。インスリンの働きや状態をしめす指標となる。
  • 随時血糖値
    (略称:Glu、glucose)
    食事とは関係なく測る血糖値のこと。食後どの位での測定なのかを見ることで、食後血糖値の推移を推定することができる。
  • 75gOGTTによる血糖値
    (oral glucose tolerance test)
    空腹時に75gのブドウ糖を溶かした水を飲み、30分後、1時間後、2時間後に採血して測る血糖値のこと。インスリンの働きや状態しめす指標となる。
  • HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
    血液中の赤血球成分”ヘモグロビン“に、ブドウ糖が結合したもの。これを全体のヘモグロビン量に占める割合として、%で表記される。約1~2カ月前における血糖の変動をしめす指標となる。
  • グルコアルブミン
    (略称:GA、glycated albumin)
    血清中におけるタンパクの一種”アルブミン“とブドウ糖が結合したもの。HbA1cと同じく%で表記されるが、約1~2週間前の血糖の変動をしめす指標となる。
  • 1.5AG(イチゴエイジー)
    (1.5アンヒドログルシトール)
    血液中に一定の量で存在する糖アルコールで、ブドウ糖の次に多いもの。高血糖状態でおこる尿糖にともなって1.5AGも尿に排出されることで、相対的に血液中の濃度が低下するのを測る(単位はμg/ml)。1~数日間前の血糖の変動をしめす指標となるほか、食後高血糖の確認にも有用。

【コラム①】漢方薬や認知機能サプリが、検査値に影響!?

「市販の医薬品やサプリメントなら医療用医薬品のようなリスクはない」と思っていませんか?
しかし、医療機関での血糖検査で影響を与える市販薬や健康食品も存在します。なかでも注意したいのは、漢方薬や生薬の成分を含む食品で、 ”1.5-アンヒドログルシトール(以降、1.5-AG)” という検査項目が異常値をしめすこともあります。

この1,5-AGは、ブドウ糖(グルコース)とよく似た構造をもつ天然に存在する糖アルコールの一種です。本来は、高血糖の状態になると血液中の濃度が低くなります。しかし、要因となる成分を多くとると血液中の濃度が下がらずに、高い値となってしまうのです。
ここで、1.5-AGは
幅広く食物に含まれているものの、量が多いとされる大豆でも0.02%とごくわずかで日常的な食事において気にする必要はありません。

一方、生薬成分の「オンジ」を多く含む漢方薬(人参養栄湯や加味帰脾湯、葛根湯、大柴胡湯など)では注意が必要です。このオンジは、漢字で遠志と書き示すとおり ”志を強くしてもの忘れを治す“ といわれ、近年では認知機能に関する健康食品でも販売されています。
ある調査※によると、4週間ほどオンジエキスを飲んでから測定した1.5-AGは、飲む前とくらべて明らかに高い値を示し、中止してから元の値に戻るまで4週間を要したという報告も。

多くの食品素材で開発が目覚ましく選択肢の増えた現代では、さまざまな視点から健康を見つめる姿勢が求められているのでしょう。

健康診断や血液検査をおこなうときは、期間的にも余裕をもって準備をしておくことが大切です。
 ※参考:「オンジを多く含む漢方薬(人参養栄湯)の血清1,5アンヒドログルシトール(1,5AG)値に及ぼす影響」J.Japan Diab.Soc.45(8):583,2002 

HbA1cの数値が高く出たとき、「食後だからね」というひとがいます。これは、健康診断でその結果について説明はあるものの、検査項目の内容については詳しく知る機会の少ないことが理由の一つかもしれません。
こうした誤解をとくことのできる環境という視点でも、検体測定室をうまく活用しましょう。

【 よくある誤解 】
  • HbA1cは食前に測れば今より低い
  • 中性脂肪と血糖で特に関係はない
  • HbA1cは病院に行かないと測れない
  • 血糖値は食後の測定では意味がない

【コラム②】ヘモグロビンとHbA1cはどう違う?

1968年にイラン人医師 Rahbarによって発見されたHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、長期的な血糖を見るのに有用な検査として現代では広く実施されています。
このHbA1cと、貧血の検査項目にあるヘモグロビン(Hb)との違いは何でしょうか?

Q.「ヘモグロビン」って何?
「ヘモグロビン(Hb)」は赤血球に含まれるタンパク質の一種で、酸素を身体のすみずみに届ける役割を担い、ひとが呼吸をするために欠かせません。
その構造は「グロビン」と呼ばれるアミノ酸の重合体と、鉄(ヘム)が4つ結合した形。このグロビンの種類や数によってHbAやHbF、HbS、HbA2といった区分に分けられます。
つまり、Hbはこれらの総称です。ヒトは生後6カ月を超えるとHbのうち96%以上をHbAが占めるようになるため、Hb≒HbAとして表記されることも多くあります。

Q.「HbA1c」って何?
まずHbA1は、HbAに糖が結合してその分子がマイナスに荷電したものです。この結合の仕方により、HbA1cとそれ以外のHbA1bなどに分かれます。
そのなかで大多数を占め、1~2カ月に渡り安定な結合の形式(ケトアミン結合)をとるHbA1cが検査の指標として使われています。検査値の単位が%なのは、全体のHb量に対するHbA1c量の割合として表しているから。

Q.もっと簡単に説明して
健康なヒトで「HbA1c」は、全体の「Hb」のうち4~6%を占めています。言うなれば、「HbA1c」は糖とくっついている”異常ヘモグロビン“。これが高く推移してしまうと、「Hb」の働きを十分に発揮できないことに加え、身体にとって負担も生じやすくなります。

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検査内容を理解する必要性

最低でも年に1回は、受けることが推奨されている健康診断。その結果をふり返り、ふだんのライフスタイルで実践に移していますか?
しかし、その検査値がどうして上がったのか、下げるには何をすればよいのか知る機会が少ないというひとも少なくないでしょう。
より具体的なアクションを導くために、第一歩として検査内容を理解することも大切です。

段階にわけて、つぎの3つのステップで取り組んでみてください。専門的な知識がなくてむずかしいと感じるひとは、かかりつけの医師や薬剤師に聞いてみましょう。※ここでは検体測定室で測ることのできる、随時血糖値とHbA1cについてあげています。

Step①把握|数値が上がった理由

甘党でもないのに血糖に関する値が高いというひとは、中性脂肪やBMI(ボディマス指数)、筋肉量も確認してください(薬剤性や二次性糖糖尿をのぞく)。一般的に、筋肉量が少なく中性脂肪の多いひとでは、糖の利用率があがらないために血糖は高くなりやすい傾向にあります。
また、検査前に(HbA1cでは1か月半~2か月前)、交感神経刺激作用のある風邪薬や鼻炎薬などを飲んでいませんでしたか?”マオウ“という生薬成分が含まれた医薬品やドリンク剤などでは、グリコーゲン分解作用によって値が高くでる可能性もあります。

Step②検討|数値を下げるには?

とくに異常値の結果でなかった場合でも結果表をよく見てみると、血糖に関する数値をより良くコントロールするためのヒントが隠れていることもあります。たとえば、中性脂肪が正常域の範囲内でも高めだったり、筋肉量が少なめだったり。正常域にある数値でも、改善の見込めるものがないか探してみましょう。
血糖だけでなく血液検査の項目に対し総合的に取り組むことが、結果として血糖を改善することにつながります。

Step③実践|目標にあった実践

どの数値をどのくらい下げたいか目標が決まったら、いよいよ実践です。
食生活に自身のあるひとは、運動や睡眠で取り組めそうなことを1~3つくらい挙げてみましょう。たとえば1日3分の運動でも、インナーマッスル(深層筋)を鍛えるのか、糖の代謝に関わる速筋(そっきん、白筋ともいって瞬発力にすぐれる筋肉)を鍛えるのかという風に実践方法は異なります。
一方、食生活での改善方法が見いだせないときには、調味料の濃さや食品素材そのものがもつ栄養価など、視点をずらして見てみましょう。

検体測定室に寄せる期待

検体測定室に期待されていることが数々あるなかで重要なのは、受検者さんの行動変容に寄与すること。検査内容への理解を深めることで、糖尿病をはじめとする生活習慣病に対する意識も高まる期待がもてます。
また、将来もし糖尿病に罹ってしまった場合にも検査の基礎知識が身についている分、治療に対して自主的に取り組みやすくなるのではないでしょうか。
この検体測定室が一般の方々にとって、ひとつの情報収集の場としても活用されるようになればよいですね。


※この記事は2023年2月時点の情報です。ガイドラインや法の改正によって内容に変更が生じている際には、現状をご優先ください。この記事が、これから検体測定室を検討する方々にとって何かのヒントとなりましたら幸いです。

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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