いくら必要?検体測定室の開設~運用におけるコスト算出

ここ数年、検体測定室の常設件数が全国2,000件前後で伸び悩む背景には、諸々のコスト(経費)が嵩むことも要因の1つと考えられています。ここでは、開設から運用における6つの諸経費と外注のほうが結果的にみて安くすむもの、初めから予算として組み込んでおきたいものなど、一連の諸経費についてまとめました

目次

開設から運用までの諸経費は6つ

検体測定室の常設あるいは、期間を限定して開設する際にかかる経費は大きく分けて6つあり、細かい設定や金額は開設する目的によっても異なります。開設してから思わぬ経費で負担が生じることのないよう、前もって目的のなかでも優先順位を決めておくことが大切です。

コスト1:測定機器や設備の初期投資

まずは、血糖値測定器を除き、最も単価の高い測定機器本体の購入を検討します。検体測定室で測れる9項目(肝機能3項目、脂質4項目、血糖2項目)のうち、いちばん高額な測定機器は肝機能が測れるもので、70~120万円/台ほどです。続いて、脂質の場合は30~50万円/台くらい。血糖では、HbA1cの方が随時血糖値を測るものよりも高額ではあるものの、肝機能を測る機器ほど高くはありません。
機器によっては、肝機能と一部の脂質や随時血糖値を同時に、あるいは、測定用試薬を変えることで脂質とHbA1cのどちらも測定できるものがあります。

次に必要なのは、測定室を設置するスペースの確保に関する費用です。パーテーションや机(測定台)、椅子などの什器を揃え、導線や間取りについて幅を決めておきましょう。こうした機器や設備の準備は申請後ではなく、申請前の段階で揃えておかなければいけません。厚生労働省の担当者によると、過去にはこれらの準備を終えていない段階で開設届を提出し、運営開始となっていた事業所もあったのだとか。

コスト2:専用の測定用試薬

測定には受検者さん1人につき、各項目ひとつずつ測定用の試薬カートリッジ(血糖値の場合はセンサーチップなど)を必要とする機器がほとんどです。採取した血液を保管して検査所へ搬送する健康診断や献血などと違い、採取した血液はその場ですぐに専用の試薬カートリッジへ充填し、測定機器本体にセットして測定します。
この試薬の値段は機器により異なるため、本体機器の購入時やレンタルする際には合わせて確認しておくとよいでしょう。
注意したいのは、試薬ごとに定められた使用期限です。その事業所における測定の回転数や予測数を超えるほど過剰に在庫するのは、期限切れによる廃棄を招き大きな損失にもなりかねません。また、医薬品卸を通じて納品する際、その卸会社の備蓄する数や回転数にも左右されることがあります。
過剰に購入しないことはもちろん、一度に使い切れない可能性が高いときは発注時にあらかじめ、どの位の期限のものが納品されるのかを確認してから発注するもひとつの方法でしょう。

コスト3:針や衛生品などの消耗品

手指から血液を採取するときに用いられる穿刺針の種類は約数十種あり、測定用試薬と同様にその使用期限も様々です。加えて、針によっては最小ロットが100個を超えるものも
受検者さんにとって最適な太さや深さを選択する一方で、期限を超えると廃棄には専用のハザードボックス(感染性廃棄物専用の廃棄容器)や、管理における手間と廃棄費用がかかるというのも事実です。針1本だけなら20円未満でも100本なら2,000円と測定用試薬に比べれば高くないものの、日常的な使用期限の管理も欠かせません

コスト4:人件費(マンパワー)

測定機器本体を購入する以外で、いちばん経費のかかる部分が人件費です。携わる人数については、開設時だけの人件費に捕らわれずに、中長期的な視点で設定することが望まれます。
薬局など企業内で内製化する際は、中核となる数名の有識者を集めてから、手分けして取りかかるとよいでしょう。とくに開設時にはおこなう作業が多いため、連携をとりつつ作業分担をして進めるのが理想です。例えば、資材作成をする人、メーカーや卸業者と交渉する人、市場や業界動向を調べる人、運用手順やマニュアルをつくる人といった作業分担に。

どんなに仕事の出来る人でも、不得意分野というのは存在するものです。この不得意分野に余計なストレスや時間をかけてしまうリスクは、バランスのよいメンバーをもってチーム構成することで回避できます。さらに、こうした作業分担は、のちに人事的な移動や交代が起こったときにも、情報共有がしやすくなるというメリットが期待できます。”唯一のキーパーソン不在によるトラブル”に対して、開設当初から布石を打っておくことも重要ではないでしょうか。

コスト5:広告宣伝費

開設目的にはよるものの、受験者さんが全く来訪されなければ、初期投資も含めた検体測定事業所としての損失は避けられません。規模や目的に合わせた、効率的な周知と宣伝が必要です。例えば事業所の見えやすい位置に、のぼりやポスターなどで『検体測定室(あるいは簡易血液検査)』の掲示を行うなど。ときにはイベントのような形で、広く告知を打ち出すのも有用でしょう。

ただし、測定結果にひも付くことが連想されるような商品のサンプリングや提案、サービスの提案などは行ってはいけません。告知の際にも誤解をまねかないようにすることが大切です。
以前は主流だったポスターやチラシでの告知方法が、現代ではSNSや事業所独自のWeb広告などに広がりつつあります。どの告知媒体においても、『特典』や『プレゼント』という文言は消費者にとって魅力的に映るものです。
受験者さんのターゲット層に合わせた宣伝方法で無駄のない広告費、かつ、検体測定室のガイドラインに違反しないような集客をおこなっていきましょう。

コスト6:継続運営に必要な費用

そのほか、継続的に検体測定室を運営するには、年に1回以上の外部精度管理調査への参加や定期的な内部精度管理の実施、外部研修への参加、配布資材の見直しにかかる費用などが必要です。また、測定に従事するスタッフの手技に関する研修に留まらず、施設内で関わるスタッフの中においても、質疑応答に関する情報更新は欠かせません。
したがって、事業所の規模によっては、この継続運営に必要な費用で見た場合にも人件費が最も高いという所もあるでしょう。

外注すれば安くすむ経費も

毎日ずっと受験者さんを待ち続ける必要がなければ、常設ではなく期間を限定して開設する、いわゆる”イベント型検体測定室”を選択するのもひとつの方法です。
その場合、費用のなかで最も高い測定機器本体をレンタルで調達するという検討もできます。実際に購入するとなると数十万円もする機器本体が、1~2日間なら数万円で借りられることも。また、手間のかかる申請作業は業者へ外注することで、その分の人件費や労力が省けることもあります。さらに、レイアウトに必要なパーテーションや椅子といった備品でレンタルを活用するのも有用です。これにより、什器の修理や買い替えといった長期的な費用もおさえられるだけでなく、購入したくなったときには自らの経験から選んで適切に購入することが可能になります。
これらは自社のもつ人財や余力、時間の猶予にあわせて検討するようにしましょう。

  • 単発なら機器本体はレンタルもあり
  • 申請や資材作成の作業は外注で早い
  • 什器や修飾品は買う前にレンタルで吟味

加えて、台帳類や必要な資材は、検体測定室連携協議会の会員になると提供を受けられるものがあります。測定結果を記録して受検者へ手渡すシートや台帳類、掲示物のひな型、のぼりなど、製作費用にかかる自社の人件費を考えれば安く抑えられる場合も。双方を見比べ、効率的に運営できる手段を選択していくのが賢い方法ともいえるでしょう。

収益につなげるために

残念ながら、測定代金として受験者さんからいただく費用を収益として考えることは難しいでしょう。なぜなら、測定ごとに必要な試薬カートリッジや穿刺針などの消耗品を差し引くと、それだけで測定費用の相場価格に達してしまうからです。
とは言え、測定費用は事業所で独自に設定でき、測定費用を引き上げれば多少の利益は生まれます。しかし、5月または11月に全国各地で増える”イベント型検体測定室”では無償提供の所も多く、消費者の中にはそれが根強く印象付いてしまう人も。そのため、相場価格を大幅に超えて引き上げるのは得策とは言えません。

つまり、「収益」の捉え方は、もっと長期的な視点で考える必要があります。
たとえば、一般企業内では従業員の健康意識が底上げされることで、結果として作業効率が上がって功績につながること、病気や体調不良による欠勤や離職が少なくなることなど。一方の薬局やドラッグストア、フィットネスクラブといった健康に関する専門知識をもつ人材がいる環境では、検体測定をきっかけとした健康情報の発信によって他社との差別化にもつなげることが出来るでしょう。

コストの目安4段階

前述のように、検体測定室におけるコストは目的によって大きく変動します。本体機器はレンタルの上、期間を限定して開設するとき、1日間(稼働6時間程度)の運営にかかるおおよその費用は次のとおりです。
ここでは便宜上、1日5時間の稼働で人件費は1人1万円、各種作業に関する諸経費や衛生消耗品を含む備品、什器などは含めずに算出しました。尚、肝機能検査が可能なPOCT機器※のレンタルをおこなっている企業は、2024年春の時点で存在しないため、測定項目はHbA1cと脂質4項目に絞っています。

安さ」重視!
  1. 測定項目:HbA1c  
  2. 測定ブース:1つ  
  3. 受検者数:20人  
  4. 運営スタッフ:2名  
  5. 本体機器レンタル:1台

(目安金額¥)=①(試薬代¥500+針¥20)×③20人分+④¥20,000+⑤¥50,000=80,400円

項目数」重視!
  1. 測定項目:HbA1c、脂質4種  
  2. 測定ブース:1つ  
  3. 受検者数:15人  
  4. 運営スタッフ:2名  
  5. 本体機器レンタル:1台

(目安金額¥)=①(試薬代¥1,400+針¥50)×③15人分+④¥20,000+⑤¥50,000=91,750円

項目数&スピード」重視!
  1. 測定項目:HbA1c、脂質4種  
  2. 測定ブース:2つ  
  3. 受検者数:30人  
  4. 運営スタッフ:3名  
  5. 本体機器レンタル:2台

(目安金額¥)=①(試薬代¥1,400+針¥50)×③30人分+④¥30,000+⑤¥100,000=173,500円

項目数&スピード&人数」重視!
  1. 測定項目:HbA1c、脂質4種  
  2. 測定ブース:3つ  
  3. 受検者数:50人  
  4. 運営スタッフ:5名  
  5. 本体機器レンタル:3台

(目安金額¥)=①(試薬代¥1,400+針¥50)×③50人分+④¥30,000+⑤¥150,000=252,500円

※POCT:Point Of Care Testingの略で、
※株式会社リテラブーストでは機器レンタルのみは行っていませんが、1台あたり1日60,000円から持参し立会いサービスの提供がございます。

今回は、検体測定室に関する知っておきたい費用についてまとめました。医療機関の中に縛られず、幅広いシーンで開設できる検体測定室だからこそ、そのハード面は多方面からの検討も可能です。受検者さんからの費用で賄えないとしても、中長期的な視点でメリットを生み出す手段として活用してみてはいかがでしょうか?

この記事は2024年5月時点の情報を基に作成しています。現状と相違のある際は各種ガイドライン等を優先していただきますようお願いいたします。

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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