「第1回健康サポートEXPO」見学レポート|オンライン化で検体測定室の位置づけは?

検体測定室の常設件数が全国で2,000件前後と伸び悩む一方で、着々とオンライン診療やオンライン服薬指導の普及に向けた動きもあります。ここでは、2023年10月11日~同月13日に開催されたメディカルジャパン東京(幕張メッセ)へ行ってきた筆者の印象や学び、注目した登壇内容2つ「オンライン診療の課題と今後の展望」「パネルディスカッション|医療モール最前線」について紹介します。
検体測定室の位置づけは、オンライン診療の普及に伴ってどのように変化していくのでしょうか?

目次

イベントの概略

メディカルジャパンはRX Japan株式会社が主催する、最新の健康グッズやヘルスケアITなどが一同に集まる展示会です。このイベントは医療と介護ならびにヘルスケア従事者のための展示会で、複数の業界にまたがる製品やサービスを見るだけでなく、実際に体験することも。こうした医療に関わる物流やIT技術、人事や集客、感染管理や施術など幅広い領域を6つのEXPOに分け、エリアごとに展開しています。

なかでも今回、筆者が注目したのは「第1回 健康サポートEXPO」。これまでも、「次世代薬局EXPO」では様々なツールやIT技術に関する新しい情報に触れることが出来ました。そこに今回、“健康サポート”というEXPOが新しく登場したことで、「何か新しい視点が必要に違いない」といった緊張感と好奇心が駆り立てられます。

数あるセミナーの中では、ジェイフロンティア株式会社の代表取締役社長 中村 篤弘氏が登壇する「オンライン診療の課題と今後の展望」と、3人の豪華メンバーで登壇する「パネルディスカッション|医療モール最前線」を選んで傾聴しました(後述)。
その理由は2つ。1つは、検体測定室そのものがオンラインで実施することは難しいということ。もう1つは、薬局で検体測定室を運営する場合、近隣の医療機関から同意を得ることがハードルとなる可能性もあるためです。

こうしたセミナーや展示ブースで学びながら、これから検体測定室が担う位置づけについて改めて考えます。

ドラッグストアショーとの違い

薬局やドラッグストアに関するイベントと言えば、当社リテラブーストも20238月に検体測定室の運営支援で参加した「ドラッグストアショー」が有名です。コロナ禍中には閑散としていた会場も、2023818日~20日の第23回開催にはその活気を取り戻し、多くの参加者で賑わっていました。

今回、メディカルジャパンに「健康サポートEXPO」が加わったことで、専門的で細かい情報については対象者を絞って展開できるようになったかもしれません。どちらかと言うと、「ドラッグストアショー」は一般の参加者も楽しみながら医療や健康、そして多くのツールに触れる機会という風に捉えることもできます。(開催初日のみ、ビジネス関連における参加者の制限あり)そのため、検体測定室のほか、既存の骨密度検査や血管年齢測定など数々の測定体験ができるのも特徴のひとつです。

対して「健康サポートEXPO」は、例えば接骨院や鍼灸院などでおこなう姿勢分析や健康管理アプリなど、自由診療の領域においても広く活用できるツールについて業界関係者が効率よく情報収集し、商談に進めることができる機会です。捉え方によっては医療関係者のアップデートや情報収集、スキルアップにもってこいのイベントと言えるかもしれません。

どちらも、患者様など集客における差別化は重視しつつ、その見せ方や提案方法は異なるのが2つのイベントの大きな違いでしょう。

セミナー傾聴「オンライン診療の課題と今後の展望」

今回、注目した1つ目のセミナーは、ジェイフロンティア株式会社の代表取締役社長 中村 篤弘氏が登壇する「オンライン診療の課題と今後の展望」について。中村氏の手掛けるオンライン診療・服薬指導アプリ「SOKUYAKU®」はいま、俳優の及川光博さんが出演するテレビCMでも注目を集めています。
長かったコロナ禍が終息しつつある中で、20204月に緩和されたオンライン診療とその方向性が気になっている人も多いでしょう。すでに20237月、一時的に緩和されていた特例措置は終了しました。一連を通じて最も大きかったことは、「7日間の処方制限が廃止されたこと」と話します。

およそ2分間でアプリの概略を説明したあと、開発の経緯や重視した部分、さらに改良を重ねている点なども解説しました。驚くべきその視点は、ユーザー(オンライン受診やオンライン服薬指導を求めてアプリを利用する人)がどの時点で、いわゆる“かご落ち”となっているかを検証し、その対策を講じていること。
確かに筆者もこれまで、調剤薬局の現場でお薬手帳アプリを勧めても、登録に手間がかかったりログインに不具合が生じたり…。途中で諦めてしまう患者様も多くいました。

極めつけはアプリの利用料です。処方元の医療機関や薬局は無料で、患者様は受診と服薬指導がそれぞれ一律の150円(配送料などは医療機関や薬局ごとに個別設定あり)。他社ではオンライン診療を受けるために、数百円かかるアプリもあります。あるいは、患者様の利用料は無料でも、医療機関や薬局がその費用を負担している他社アプリも。

実は、日本におけるオンライン診療の普及率は中国やインド、米国などと比べると格段に低いそうです。現状、当アプリの利用者で多いのは3050代の女性で7割程を占めていると言います。
超高齢化社会の先端をいくわが国では、医療費の軽減が重要だという認識は一般にも広まりつつあり、高齢者の負担割合も見直され続けているのが事実です。言い換えると、実際に足を運んで受診する費用よりも安くすむオンライン診療は、高齢者を含めた幅広い世代に普及していく可能性が十分にあるということ。最近ではスマートホンを使いこなし、お薬手帳アプリを活用するシニア世代も増えてきているのを、筆者も現場で実感しています。

利便性と検証し尽されたSOKUYAKU®のようなツールは、何か着火剤(ブースター)のようなきっかけがあれば、瞬く間に広がっていくのかもしれません。

セミナー傾聴「パネルディスカッション|医療モール最前線」

もうひとつ注目したセミナーは、株式会社アイセイ薬局の中嶋氏と株式会社サエラの田中氏、ファシリテーター役にはミツワ広告株式会社の天野氏(順不同、屋号五十音順)、この豪華3人が対談形式で登壇する「パネルディスカッション|医療モール最前線」です。

2社が展開する調剤薬局は医療モール内での出店も多く、天野氏の手掛ける看板は多くの患者様がいつも何気なく目にしていることでしょう。今や一般の人にとって、医療モールの中に調剤薬局がないのは想像できないくらい、当たり前のことなのかもしれません。
対談は、「なぜ医療モールなのか?」「医療モールのメリット&デメリット」「これからの医療モール」という内容で繰り広げられました。

普段あまり聞くことができないような工事や交渉のポイントから看板の見せ方についてなど、そこには何年、何十年とかけて磨き重ねてきたノウハウの重厚さを感じます。
とくに筆者がいちばん興味をもったのが、内覧会について。エリアを考えたポスティングの方法や一般周知などに要する費用のほか、一緒に開業する医師の登壇を交えた催し物、医薬品を搬入する前の調剤室見学、医療モール内をすべて巡ってもらうためのスタンプラリーなどです。

目からうろこが落ちたのは、処方箋をリサイクルしたトイレットペーパー(非売品)を粗品として参加者に渡すということ。これから普及してくるであろう、リフィル処方箋もちらりと頭をよぎるようなSDGsへ取り組みです。おそらく、参加者の納得感も大きいことでしょう。
最後に各登壇者は、“保険診療に頼らない未病や予防をふくむ複合的なモールを作っていきたい”、“医療に限らず、どのような業態と組めば地域の皆様への貢献につながるかを考えていきたい”と述べました。

これから、電子処方箋の開始やオンライン診療の普及を受けて患者様の来局頻度が減る中で、薬剤師や薬局の質を高めていくことが重要課題であることは間違いありません。検体測定室はそうした部分でも活用できる土俵になるだろうと、改めて認識することが出来ました。

展示ブース見学 “検体測定室に組み合わせると面白そう♪”

当社リテラブーストもよく、検体測定室とセットで参加した方々に楽しんでもらえるような催し物を企画することがあります。例えば、糖化度測定や骨密度検査のような非襲撃的な測定は、抗血栓薬や抗凝固薬を服用中の人も受けられる人気の検査体験です。

今回、展示ブースを見学していて目にとまったのは、ライフケア技研株式会社のアルコール体質試験パッチ®。腕の内側に5cmほどのパッチを20分間貼るだけで、「飲酒厳禁」「一気飲み厳禁」「飲み過ぎ注意」などのアルコール体質(遺伝子型)を知ることが出来ます。飲酒だけでなく、アルコールを含む食品や化粧品などに対するアルコール過敏症のリスクについても知る機会として活用できるでしょう。

コロナ禍が開けてリアルに外でお酒を飲む機会が少しずつ増えてきた人もいるはず。こういった検査結果を準備しておくと心強いことはもちろん、自分の体質を知ることに役立つでしょう。これを検体測定室では、飲酒が脂質や糖質の代謝に与える影響について会話を展開するきっかけになることも期待できます。

ほかにも、面白そうなツールが数々展示されていました。例えば、パーソナライズな献立をAIが提案してくれる栄養管理アプリなど。こうしたツールを組み合わせながら、検体測定室で受検者の潜在的とも言える個別ニーズに応じていくことが、広く一般的になっていくのかもしれません。

展示ブース見学 “薬受け取り専用ロッカーの登場”

最近、駅や商業施設だけでなく、様々な場所にロッカーが設置されているのを見かけます。なかには温度管理が可能なロッカーも。今回の展示会では、業界初となる薬専用ロッカーの情報を得ることが出来ました。もちろん、その背景にあるのはオンライン診療やオンライン服薬指導です。アプリをつかった処方箋の送信からオンラインでの服薬指導、指定する場所で薬を受け取ることまで一貫したサービスの提供が既に始まっています。
また、アプリの活用は保険診療に関わることだけでなく、検体測定室や健康フェアなどに関する告知と予約管理にも普及していくかもしれません。

まとめ|検体測定室と業界のオンライン化

今回の見学と傾聴から、検体測定室はリアルが必要なツールであるにしても、業界的なオンライン化の流れを無視することは難しいというのが筆者の見解です。保険診療の知識はもちろん、登壇でも示されていたように複合的なサービス提供ができるような知識を身につけておく必要があります。
とくに保険適用のない検体測定室でサービスを受けようという受検者は、その価値が理解できている健康意識の高い人が多い印象です。おそらく、オンライン診療やオンライン服薬指導に加え、リフィル処方箋やセルフメディケーション税制などにも興味を持つ人が多いでしょう。

そうした方々に対し、エビデンスのある情報を適切に提供していくためにも日々の研磨は欠かせません。

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この記事を書いた人

曽川 雅子のアバター 曽川 雅子 株式会社リテラブースト代表、薬剤師

大学卒業後15年間の薬局勤務を経て独立。
多彩なシーンで検体測定室のプロデュースと、エビデンスの確かな記事の執筆提供を中心に活動中。「ここで聞けて良かった!」というお声が原動力。

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