今年も医療・介護・ヘルスケア分野の総合展「メディカルジャパン」が2024年10月9日から3日間、幕張メッセで開催されました。薬局業界では選定療養費※の徴収や電子処方箋、オンライン服薬指導などの運用が本格的に始まるなか、薬局や薬剤師にとって必要な情報やシステムはどのように変化しているのでしょうか?
ここでは多くの魅力的な展示内容のうち、筆者の独自目線(検体測定室の薬剤師)で薬の配送システムやお薬手帳アプリの進化、調剤監査ピッキングアプリ「EveryPick®」、薬のデッドストックに関する運用サービス、生成AIの薬歴入力についてレポートします。
※選定療養費:保険外併用療養費とも呼ばれ、健康保険で給付の対象外として患者が追加で支払う費用のこと。既存での例では、紹介状なしに200床以上の大学病院を受診した場合や、入院中のベッド代における差額などが該当する。2024年10月1日よりイノベーションを推進する観点 から、調剤薬局では先発医薬品(一部を除く)を患者の意思により選択した場合も特別徴収が課されるようになった。
イベントの概略と参加対象者
メディカルジャパンとは、医療・介護・ヘルスケアに必要な製品とサービスに関する総合的な展示会です。年に2回、3月は大阪府のインテックス大阪、10月は千葉県の幕張メッセで開催されています。そこには、医療機関における設備や医療機器に加え、薬局や介護施設向けの新しい製品とサービスに関する最新情報なども一堂に集結。
ここに来場する医療機関や介護施設、施術所、自治体、その他のヘルスケアに関わる企業の関係者が、効率よく業界の動向と今後の方向性について学べる貴重な機会のひとつです。
2024年、特設&必見のフェア
第7回となる今回の展示会は、計6つの構成展(EXPO)と19の専門エリアで構成されていました。昨年に新しく登場した、「健康サポートEXPO」も継続での開催です。薬剤師にとってこの“健康サポート”という文言は、「健康サポート薬局」の括りもあるために、避けられないキーワードとして根付きつつあることでしょう。
言い換えると、その背景を踏まえた上で新しい独自のツールやサービスを開発し、提供する企業が在るということ。こうした情報を常に整理し、自社に対して有用なものを見極める力と、患者様から情報を求められた際に返答できるような知識を身につけておくことが医療従事者には求められます。
病院EXPO/第7回
医療IT、遠隔医療、医療機器
クリニックEXPO/第5回
電子カルテ、予約管理、集患戦略
次世代薬局EXPO/第5回
薬局ICT、薬剤業務支援、在宅管理/売買
健康サポートEXPO/第2回
施術所支援、運動/健康管理アプリ、健康食品/サプリ
介護/福祉EXPO/第7回
介護IT、見守り、介助用品
感染対策EXPO/第4回
空気清浄機、消毒剤、衛生用品
今回、事前に公式サイトで告知され、新規に特設されたのは以下に挙げる10のフェアです。
- 医療DX・ITフェア(病院EXPO内)
- 医師向け資産形成フェア(クリニックEXPO内)
- メディカル・フィットネスケアフェア(健康サポートEXPO内)
- 医師の働き方改革フェア(病院EXPO内)
- 看護フェア(病院EXPO内)
- デンタル・口腔ケアフェア(クリニックEXPO内)
- 集患・マーケティングフェア(クリニックEXPO内)
- 健康食品・サプリメントフェア(健康サポートEXPO内)
- 快眠睡眠フェア(健康サポートEXPO内)
- 美容医療・自費診療フェア(クリニックEXPO内)
筆者が注目した見どころは、公式サイトの事前告知には掲載されていなかった、お薬配送サービスフェア(次世代薬局EXPO内)です。コロナ禍の数年間では時限的・特例的な対応として厚生労働省から、オンライン服薬指導の在り方とともに、薬局で調剤された薬の配送などについても事務連絡が出されていました。そしてこの扱いは、基本的には2023年7月31日をもって終了しています。
今では、ルールに則っておこなうオンライン服薬指導により、薬局に行かなくても薬を受け取る方法があることを知る一部の人たちが、より便利な配送方法の登場を待ち望んでいることでしょう。今後、そのニーズの拡大を見据えているのか、処方薬の配送サービスやお薬手帳アプリに付随するオンライン服薬指導の機能など、数々の企業で斬新なアイデアが見られました。
薬配送システムも多様化
お薬配送サービスフェアのなかには、23都道府県で展開中の処方薬配送サービス「ARUU(アル―)®」を手掛ける、西濃グループ様の出展ブースもありました。そのシステムにはAIが最適な配送ルートを選定してくれるという、近年のDX化を踏まえた機能が搭載されています。
ありがたいのは、当日中の配送が可能なことはもちろん、手数料は無料で配送時に患者様から代金を回収し、店舗に渡してくれるという対応の手厚さ。そのほか、店舗間における在庫の移動や、老人ホームなど施設への配薬もその仕様に合わせておこなうといった対応も含まれています。驚くのは、患者様でデバイス操作が不慣れな場合、オンライン服薬指導に関するサポートまでおこない、繋いでくれるという対応まであることです。
近い将来、「かかりつけ薬剤師」ならぬ、「かかりつけ配送人」という新しいポジションが患者様に根付いていくのかもしれないという考えが、筆者の頭を過ぎりました。
進化が目覚ましい!お薬手帳アプリ
薬剤師でもある筆者はお薬手帳について、従来の紙で出来た冊子(以降、紙の手帳)とスマートフォンでインストールして使うお薬手帳アプリ(以降、手帳アプリ)の両方を使っています。わざわざ両方を使う理由は2つあり、まず、紙の手帳は自分の意識がはっきりせずスマートフォンの操作が困難なときにも、医療従事者や家族などほかの人へ簡単に預けられるため。対して、手帳アプリを使う理由は、付随する機能が充実しているためです。
多くの手帳アプリで標準的に搭載している機能のひとつが、処方せんの画像を送信する機能。医療機関を受診し処方せんを受け取ったら、その場で写真を撮ってアプリ内からかかりつけの薬局へ送信し、予定した時間に薬局へ赴くことで待ち時間の節約につながります。また、アプリによっては日々の血圧や随時血糖値の値をグラフで自動的に管理し、提出用に印刷したり、マイナポータルを連携して健康診断の結果を確認したりすることも可能です。
近年では、検体測定室での結果をQRコードで読み取って自動的にアプリ内に反映させ、体重や血圧など日頃の体調と同じような感覚で、一元管理できる手帳アプリも。こうしたPHR(パーソナルヘルスレコード)の機能が手帳アプリを中心に続々と登場していることは、現場で働く薬剤師にとって押さえておきたい内容のひとつでしょう。
そして、アプリ内のオンライン服薬指導の機能をつかえば、新規に利用する薬局でもオンライン診療から続けてオンライン服薬指導を受けられたり、薬剤師から受け取った薬に関するフォローアップが受けられたり。こうした現代社会の多様化に見合うような手帳アプリの進化は目覚ましく、独自の機能による差別化は今後、激しくなっていくのかもしれません。今回の展示会では、いくつかの手帳アプリについて、その進化版とも言える機能の数々が紹介されていました。
なかでも、ホッペ株式会社様が提供する既存の手帳アプリ「hoppe(ホッペ)®」に、複数のコンテンツが追加された「ホッペDX®」(薬局用アプリ)はとにかく多機能です。そこには、オンライン服薬指導やマイナポータル連携はもちろん、患者様自身で2023年1月から運用が始まった「電子処方せん」の内容を確認できる機能や、かかりつけ薬剤師の電子署名もアプリ内で完結できる機能も。加えて、かかりつけ薬剤師となるために必要な、認定薬剤師のeラーニング研修まで搭載しています。
ここまで機能が充実してくると、もはや、手帳アプリを見れば薬局業界の変動と課題を垣間見ることが出来ると言っても過言ではないのかもしれません。
瞬間監査!ピッキングアプリ「EveryPick®」
一方、2012年の設立当時より手帳アプリ「ファルモお薬手帳®」を手掛ける株式会社 ファルモ様(東京都新宿区)の出展ブースもありました。世の中に手帳アプリが数多あるなか、厳選した機能をしっかりと備え、高齢者や手帳アプリを開く機会が少ない人にも、シンプルで迷うことなく使いやすい印象のアプリです。
同社は、“テクノロジーと人材と教育をうまく融合し、複雑な医療課題に対しチャレンジしていく”をテーマに、手帳アプリに加え、医療インフラの構築を軸とする画期的なICTソリューションを展開しています。
例えば、たったひとつの画面で経過措置や有効期限の切迫する薬と、本部の指示も表示可能な店舗間移動の情報が確認できる在庫管理システム「EveryStock®(エブリストック)」や、地域医療連携について調剤情報の管理と蓄積ならびに共有ハブシステムで支える「ファルモクラウド®」など。
こうした薬局業務のICT化は、現場で働く薬剤師にとって対物業務の効率を上げることで時間の節約となり、一人ひとりの気持ちの余裕や新たな可能性を生み出すことにつながります。
とくに今回、筆者が感動した展示内容は、複数の薬を同時かつ瞬間に監査できるクラウド型ピッキング監査システム「EveryPick®(エブリピック)」です。調剤時に薬のとり間違えを防ぐ支援ツールとして2021年に販売開始され、① 簡単操作 ② エビデンス ③ 低価格 の3つを特徴としています。
これまでのピッキング監査システムはハンディ型や置き型が主だったのに対し、このシステムはクラウド上で管理するため、必要なのはアプリのインストールが可能なスマートフォン(またはタブレット)とWi-Fi環境だけ。そのため、配線の心配やマニュアルを理解するといった、操作全般に関するハードルも最小限で済みます。
ここで、従来は薬のバーコード(GTINコード、以降コード)が変更になっていると読み取れないことも多く、目視や別の操作で監査の登録をするか、追加の作業で写真を撮って保存しておくという手間もありました。
薬の監査は患者様の安全を担保するために大切な作業ではあるものの、ここにかける時間が患者様の待ち時間を左右することで、ストレスに感じてしまう薬剤師もいるのではないでしょうか。
その点、クラウド型のEveryPick®は1日2回、リアルタイムで薬の情報が自動更新されるため、新薬や販売移行品でもコードが認証されないという煩わしさは滅多にありません。
今回、これを体験として監査にかかった時間は、まさに瞬間そのもの。コードの読み取り方法には、「個別モード」と「一括モード」、「連続モード」の3種類があり、体験した「一括モード」はスマートフォン画面に映り込むすべてのコードを一瞬にして監査できました。こうして監査し終えた写真データは、管理パソコン上で患者様ごとにひも付き、調剤の証拠として保管と随時の閲覧が可能です。
そして薬局経営者にとって何よりうれしいのが、そのコストではないでしょうか。導入には専用のPCも機械も必要なく、随時のバージョンアップも無料、1店舗ごとでライセンス購入(月額8,000円~)のために端末は何台使っても追加費用はかからないというのが大きな魅力です。また、棚卸も無料でピッキングと同じようにコードを読み取り、数を登録すれば自動的にパソコン上で集計されるため、端末レンタルの費用も複数人が数えたものを合算する手間(その分の人件費)もかかりません。 “監査システムは高くて当たり前”という風な固定観念を払拭する、このEveryPick®の需要は今後ますます加速していくことでしょう。
※当記事は、株式会社ファルモ様の公式ホームページを参考に一部引用し、EveryPick®に関しては展示会当日に取材許可を得た上で、写真を含め掲載しています。企業情報や製品に関することは、株式会社ファルモ様へ直接お寄せください。
薬デッドストック運用も増加傾向?
調剤薬局における薬のデッドストックは、現場で働く人なら誰もが一度は考えたことがある、悩ましい課題のひとつです。納品から大体6ヶ月を超えてしまうと卸会社への返品は難しくなり、グループ会社などがなければ、処方せんで稼働しない薬はその使用期限を迎えるまで在庫として眠ることに。
この課題に対し、前述した「ホッペDX®」も参入しています。これは手帳アプリを手掛ける他社への差別化のみならず、既存のデッドストック解消に関するサービスを提供する企業にとっても注視されていることでしょう。
既存でこれを提供する企業には、① 株式会社リバイバルドラッグ様(神奈川県川崎市)や、②「みんなのお薬箱®」を手掛ける株式会社くすりの窓口様(東京都豊島区)などがあります。
前者① は、会費や登録料から送料も完全に無料で、不動在庫をすべて箱に詰めて送るだけで該当サイト上に出品が可能というもの。薬の詳細について記入や入力する手間は一切かからず、販売価格はその薬の使用期限までの残期間で一律に決められているため、自社で販売価格の再検討や購入した薬局への発送作業もありません。ただし、手数料として、売買が成立した時点での薬価に対する10%を要します。
対する後者② はマッチング機能が特徴で、薬のニーズや市場動向に合わせた販売価格を自社で決められるのが特徴です。こうしたデッドストックに対し様々な企業が参入することで、薬局の在庫解消はもちろん、流通困難な薬においては必要とする患者様への確保につながることが期待できます。
一方で筆者としては、検体測定室における体外診断用医薬品(検査用試薬)も対象にならないかと密かに願うばかりです。
会話だけで完結!生成AI薬歴入力
DX化の流れをつよく感じた展示内容としては、ウィーメックス株式会社様の提供する「生成AI薬歴入力支援サービス」が印象に残る薬剤師も多いことでしょう。これは、ChatGPTを実現するMicrosoftのAzure OpenAI Serviceを利用したシステムで、簡単に言うと、患者様と薬剤師の会話音声をマイクで拾い、自動的にSOAP形式で薬歴が作れるというもの。録音データはAIで自動テキストに変換され、ChatGPTの機能で自動的にSOAP項目へ割り振られます。
そこにはもはや、薬歴を書くだけの能力なら薬剤師には必要ないと暗示されているかのようでした。日頃から患者様のアフターケアに活かせる薬歴を意識し、服薬指導をおこなっている薬剤師の会話なら、AIで仕上がる薬歴も素晴らしい出来になることでしょう。反対に、目的が見出せないような会話が中心の薬剤師の場合は、それなりの出来にショックを受けることになるのかも分かりません。
いずれにしても、こうしたDX化の流れが、薬剤師の対人業務への強化を後押しする存在となっていくことは間違いなさそうです。
健康食品の情報収集と編集後記
展示会にはほかにも、世界最新の調剤ロボット(最新式自動入庫払出装置)「RIEDL Phasys®(リードル・ファシス)」(株式会社メディカルユアーズロボティクス様)や、指先から自律神経機能とストレス、そして血管の健康状態を同時にチェックする自律神経&心血管健康アナライザー「MAX PULSE®」(株式会社メディコアジャパン様)など、興味深い展示内容もたくさんありました。
あと、数は多くないものの、健康食品に関する展示内容も。株式会社ミヤトウ野草研究所様の展示ブースでは、「発酵ザクロゼリー」と野草野菜発酵原液「ユアラーゼ®」の試食・試飲ができました。そこでは、サーチュイン遺伝子やファイトケミカル、発酵など、昨今の健康食品業界で注目の内容について情報収集も。薬剤師は患者様から健康食品やサプリメントなどの知識も求められることが多く、こうした情報を五感とともに得られるのはありがたいことです。
今回、たった1日の視察でも、多くの情報を得ることが出来ました。これを適材適所にアウトプットを重ねながら、自分なりの社会貢献へ活かしていきたいと思います。